2004/11/29

お客様が満足する・・・という口上

少し前に郵政公社とヤマト運輸のローソン争奪に伴う問題があった。この問題はヤマトの提訴として今でも続いているが、郵政公社がローソンとの宅配契 約初日に各TVで模様を放送していた。その時に郵政公社もヤマト運輸の実担当者が異口同音に同じ事を話していた。それは「サービスの品質を高め・・・お客 様が満足する・・・」という、今ではどの企業でも必ず前口上として枕詞化しているあの言葉だった。僕にとっては少し聞き飽きている言葉でもあるのだ が・・・

ビジネスで顧客満足の向上を常に図らないと、企業経営に影響が出ることは昔から誰でも知っている。しかし、ここ10年くらい前からそれが企業からの 声として出るようになった。それは勿論、不透明で先が見えないビジネスシーンの中で、顧客ロイヤリティを高める事で、優良固定客を確保する事が重要との認 識だからだが、きっかけとなったのは、ドン・ペパーズとマーサ・ロジャーズ共著の「ワンツーワン・マーケティング」の出版からではないかと思っている。1 対1のビジネスは勿論昔からあったが、それは地域社会の中でお互いが知人同士の状況下だけだったし、もしくは対面販売の場合でも一人一人の顧客の好みまで は知る事もなかった。この書で新しい考えとしては、1.顧客シェアの拡大 2.顧客ロイヤルティの向上である。簡単に言えばその企業に忠誠心を持つ顧客を 増やし、その顧客から出来るだけお金を取ろうという作戦となる。

以前からあるマス・マーケティングの場合は、市場シェアを重視していて、その中身である顧客1人1人の事はそれほど重要視していなかった。「ワン ツーワン・マーケティング」は従来と同じ市場を相手にし、しかも個々の顧客に対応して行くことであり、つまりIT技術を背景にしなければ成り立たないこと でもある。

この「ワンツーワン・マーケティング」から、色々な考えが浮上し、またIT技術とより具体的に結びつきシステム化されていった。主なものを幾つかあ げると、顧客ロイヤリティ向上の考えから「ブランド化」の手法、人の噂などを利用する手法、人の同意を求め好みの分野のDMなどを送る考え、eメールと Webの利用、お客様の対応窓口としてのコールセンターの増強、お客様の1人1人の履歴とそこから好みを分析する手法、等々とあげればきりがないほどであ る。これらの状況はいまだに続いていると思っても良いかもしれない。逆に言えば、これからの新しい仕方が見えていないと言うことでもある。強いて1つ言う と、環境問題からの考えがあるくらいかもしれない。

これらの仕方は高度にシステム化され、さらに企業においては売り場担当から経営層までマニュアル化された中で、お客に対応していると言っても過言で はないと思う。ブランドを持っている所は特に売り場の教育と徹底したマニュアル教育は行われているはずだ。そう、それはあたかも、マクドナルドの様に。

つまり、僕等は10年くらい前から、「サービスの品質を高め・・・お客様が満足する・・・」の口上を聞き続けていることになる。僕が聞き飽きたとい うのも理解して頂けるかと思うのだが、どうだろう。でも、今回のヤマト運輸と郵政公社の同一口上で1つ気になったことがあった。つまり「サービスの品質を 高め」とは一体なんだろう?「お客様が満足する」とは一体どういう事なのだろう?という素朴な疑問である。

あまりにもこれらの言葉は口上となりすぎていて形骸化しているように思われたのだ。
さらに言えば、業界毎に自分たちの仕事に対するポリシーの問題だと思うので、ポリシーがしっかりと末端まで浸透していれば、こういう口上も違った言葉になって現れると思う。

最初に僕の意見を言えば、「サービスの品質が高いか」を決めるのは顧客である僕等であり、企業側ではないと思う。企業はその為に多くのリサーチを繰 り広げ「概ね」こうではないだろうかと「推測」するしかない。その推測はリサーチ自体の検証によって成否が決まる事になるが、当たらないことも多いのでな いだろうか。

利用者である僕等が「サービス品質が高い」と思う場合、常に期待以上の成果があった場合だと思う。ほぼ期待通りであるのなら、そのサービスに対し何も感じない。それに、お客に対し気持ちよい環境を作る事は現代に置いては当たり前のこと。

今回の宅配便サービスで顧客が業者に望む最低限の期待は、正確にトラブルなく安価に送り届ける事である。期待以上としては、顧客窓口での素早い対 応。途中経過がネットか携帯などで参照可能。トラブル時の速やかな対応等々が必要になるってくるのでないだろうか。ただ、多くの宅配業者はこれらは既に 行っている事でもあると思う。つまりは、これらも現状では期待値の中に入っているのかもしれない。

今回の場合、TVでは郵政公社のある郵便局で、挨拶の訓練を行っている場面があった。それに郵政公社ではサービスのランク付けを行い、そのランクが 高い人しか宅配便の配達が出来ないそうである。正直言うと、その場面を見て、本来サービス業であるはずの郵便業務で一体今まで何をしてきたのだろうかと 思ってしまった。彼らには100年以上のサービスの実績があるはずなのにと思ってしまったのだ。確かに郵便物の場合、顧客に対面することなく当ては郵便ポ ストまでだったので経験がないといえばそれまでのことだが・・・。でもいまから初めて本当に大丈夫なのだろうか?
その点、ヤマト運輸の方は余裕さえ感じた。既にヤマト運輸の方はマニュアルを含め標準化されているのだろう。

さらに「顧客満足を高める」とは「受けるサービスに対し期待以上の成果を持続する」ことが必要だと思う。その場合、対応する個人とのコミュニケー ションがどれほどとれるかが大きな問題になる様な気がする。その為には、実際に集配する担当者だけでなく、窓口業務に携わる人、営業、技術、経営者層まで 含め仕事に対する一貫した共通のポリシーを持っている事が必要になってくると思う。また、実際に顧客の声が経営者層まで上がる仕組みと体制も必要だと思 う。

例えば家の場合、親戚が使う宅配業者がある程度決まっているので、同じ人が宅配物を届けてくれる。同じ人なので、そこから少しずつ深いコミュニケー ションが生まれ、それは信頼感につながっていく様に思う。以前は不在中の時に隣宅に預けられる事が多かったが、最近はほとんどなく電話一本で再度届けてく れるが、人間関係が出来ると自ら届けてくれるし、かつ品物についての心配りも違う様に感じる。

もしかすると、顧客満足を高める場合、今後はマニュアルによる取り替え可能なシステムとは逆行する手法が必要なのではないだろうかと、個人的には思ったりもしている。

最近、顧客満足向上から顧客ニーズの全方位的対応による新しいサービスが出ることが多い。つまりそこまで企業努力を行わなければならない時代になっ ているのだろう。その点から見ると、ヤマト運輸が新たに行う引き取りサービスは、コンビニエンスの手前で顧客を取る点と、お年寄りなどからのニーズに応え る良いサービスであるように思う。

ただ、顧客満足を高める、サービスの品質を高めることが、新サービス立ち上げに安易に結びつくことにより、顧客の混乱と料金の複雑化および高トラブ ルリスクにつながらなければ良いとは思っている。基本は新たなメニューではなく、顧客への誠意と心配りをどのくらい深くできているかだと思うからである。 それがきちんと出来ていれば、ポリシーも含め顧客は言われなくても理解してくれると思うので、口上を言う必要は全くないと思うのだがいかがだろうか。

追記:
・本当はヤマト運輸と郵政公社の事を書くつもりでいた。でもこの問題の本質が僕なりに見えなかったので、書くことが出来なかった。ちまたではヤマト運輸へ の応援が多いように思う。先だって見たアンケートでも、ヤマト運輸を応援するが、安い方を利用するという意見が多かった。でも実際は郵政公社の方は時とし て、以前の値上がりになる部分もあるそうだ。

ネットで調べると、郵政公社がどうだとか、ヤマト運輸がどうだとかの意見が殆どだった。でもそれらの意見はこの問題の本質とは直感的に思えなかった。

僕は法律上の事は疎いけど、まず素朴な疑問としてあったのは、何故「郵政公社」がヤマト運輸と同じ土俵でビジネスが出来るのかということだったし、 それに対する法律上の制約は設けなかったのだろうか?それに郵政事業の民営化への移行の中で、この問題は当然に議論されているべき話なのに、なぜヤマトは 今頃になって言うのだろうか?
ヤマト経営者層は当然に運輸系議員達へ圧力は行っていただろうし・・・

等々あげればきりがない、「良からぬ思いに」渦巻いてしかもそれが見えない状況下で、この件に関する事がかけなかった。

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