2004/12/07

RMTという仮想世界での現実

ネットゲームの種類にMMORPG(以下 ネットRPG)というジャンルがある。数百人から数千人が 同時に遊ぶネットワークRPGのことで、プレイヤーは、自分もしくはシステム側が与えた目的をもって仮想世界の中で生活する。多くの様々な人が集まるの で、他のネットゲームよりはコミュニケーションを楽しむ事が大きな要素ともなっている。僕は1年くらい前から、その1つである「MU 奇蹟の大地」(以下 ミュー)というゲームで遊んでいる。

最近そのミューを含むネットRPGで話題を呼んでいるのがRMTの話だ。RMTとはリアル・マネー・トレードの事で、仮想物品を実際のお金で売り買いする事を意味する。
RMTは殆どのネットRPG運営会社が「利用規約」の中で禁止事項として扱われている。その理由は、仮想世界に現実の貨幣を持ち込む事により仮想世界そのものの価値が崩れる事とだと思う。

ネットRPGの開発コストは一般PCゲームソフト(コンシューマソフト)の開発期間より短いとされる。
それはネット開発がベータ版と言われる評価版から、ゲームプレイを無料として、多くのプレイヤーによる公開テストを順次行い、テスト期間を短縮する方法をとっている事が大きいと思う。開発期間短縮は開発コストに跳ね返り、ソフトの投資回収期間にも影響を与える。
回収期間が短いと言っても、それはコンシューマソフトに較べての話で、一般には約2年と言ったところかもしれない。勿論それは参加者を多くする事で短期間 化することは可能であるが、その為にはゲームのバージョンアップによる新機能の追加を強いることにもなり、それによる開発行為により回収期間は、さらに延 長することになる。

つまりネットRPG運営会社側の戦略としては、新規参加者の増加と、参加者が出来るだけ長い期間を遊んでもらうことにつきる。
新規参加者獲得については、新規登録時に一定の無料期間を設け、敷居を低くしている。また特典を付ける事もあるが、数多くのネットRPGが既にあり、かつ 新たなゲームが頻繁に登場する状況下では、新規参加者の増加はかなり難しく、一人あたりの獲得コストをみても高くならざるを得ない。
尚かつ、ネットRPGのゲームシステム上においても新規獲得は難しくなっている。何故なら、多くのネットRPGは敵であるモンスターを倒すことにより得ら れる経験値を積み重ね、レベルアップを行うことで、さらに強くなり、また仮想世界での移動可能世界が広がるので、新規参加者は従来の参加者に較べて差が歴 然となり、ゲームを行うモチベーションが上がりづらい事。および、従来の参加者が既に仮想世界の中にコミュニケーションを楽しむグループを形成している が、新規参加者はそれらのコミュニケーショングループに入りづらさがある事、等があげられると思う。

結果的にネットRPG運営会社は、新規参加者増加も視野に落とせないが、力点を従来参加者の継続利用に持って行く事になる。ここでいう従来参加者とは、評価版もしくは課金開始当初からの古くからの参加者のことを示す。

従来参加者がネットRPGを続ける理由として、仮想物品を時間をかけ苦労して手にする達成感と、目的と仮想現実の中で話題を共有する事により得られるコミュニケーションの楽しさにあると思う。
RMTは、上記のような、仮想世界の中で楽しむ従来参加者の達成感を阻害する事につながるので、ネットRPG運営会社にとって重要な禁止事項になっていく。

ただしRMT行為自体は現行法的には違反行為ではない。個人同士の合意による売り買いの範疇であるからだ。著作権の問題を指摘する声もあるが、結果的にそのシステム内でしか使用できないので、現行法での規制では難しいように個人的には思える。
結果的に、ネットRPG運営会社で出来ることは、登録された参加者が違反行為を行った場合の即時登録抹消くらいしかなく、しかもRMTでの取引はメールな どで行うことが多い為、ネットRPG運営会社では違反者の特定がきわめて困難な状況にある。さらに特定者が見つかり、登録抹消を行っても、再度登録は可能 となっている。

しかもRMTがネット運営会社の利用規約上で違反行為となっていても、それの位置づけは登録抹消の理由の1つでしかない。また法的には違反行為でないので、当然にRMTに対しても擁護派と否定派の双方の価値観が出てくる事になる。

擁護派の言い分としては、元々ネットRPGシステムには不公平があり、その中で楽しむためにはRMTは必要であるとの認識だと思う。不公平な部分と は、前記のように概ねネットRPGは経験値を得ることでより強くなり世界が広がるが、同時に敵を倒すことで得られるアイテムも貴重で高価な物となる。また システム自体は参加者の長期継続利用を戦術としているので、レベルアップにはそれなりのプレイ時間が必要となってくる。その為、プレイする時間がない会社 員などは、多くの時間をプレイに費やすことが可能な人達に、プレイ以前に差が付いてしまうことになる。その時間差の部分をRMTで補うと言うことになる。

それに対する否定派の言い分は、RMTによる仮想現実世界の崩壊につながる事への危機感となる。RMTを行う者は、ネットRPGの中で仮想物品の取得が中心的となる。効率よく仮想物品を取得するために、BOTもしくはチートの利用につながる。
BOTとは道具・もしくはマクロにより、本来人が操作しなくてはならないキャラが無人で敵を倒し続ける事。
チートはネットRPGシステムにおけるセキュリティの脆弱性をねらいネット上を流れるデータを改ざんし自分に有利な方向に持って行く事である。
この両者とも当然の事ながらネットRPGの中では禁止されている。

その他に外国人労働問題がある。外国人労働問題とは外国から日本のサーバに入り、RMT目的で仮想物品を取得しようとする問題で、時として人を雇い 組織として行動を取ることも多い。彼らにとっては自国でRMTの話を行うより、貨幣価値の高い日本でRMTを行う方が効果があることになる。

これらRMT目的の人達は、目的は遊びではなくビジネスになる傾向があるので、仮想物品を得る事に対し、成果と効率を追求する事になる。
ネットRPGでは敵(モンスター)が発生しやすい場所が幾つかあり、当然に人気スポットとなっている。RMT目的の人は、仮想物品取得が目的なので、他プ レイヤーへの迷惑行為を意識する事が少ない傾向にある。例えば、人気スポットの独占、他プレイヤーが占有している場所の横取り、その為のPK行為等で、そ の結果他プレイヤーがゲームを楽しむ事を妨げる状況になっている。

さらに、RMT目的の人は様々な仕方で仮想物品を収集する事になり、仮想世界の中においても富の独占が起こる事が予想され、その結果仮想世界のバランスが崩れる事にもつながる。

RMTが横行するネットRPGは、上記の結果、従来参加者の自主的退会が多くなっていく傾向になっていき、最終的には運営会社がゲームを続けることが出来なくなると、否定派は言い分として持っていると思う。

しかも、ここにきてネットRPG運営会社にとって、RMT行為以上に問題となる事が発生してきている。それは「ハックサーバー」の存在である。
ハックサーバーとは、ネットRPGのプログラムとプロトコルがハッキング・解析され、勝手に無料サーバーが立ち上がってしまうことだ。
元々ネットRPGがコンシューマーソフトより有利な点として、不正コピーが出来ない事があげられていた。「ハックサーバー」はこの前提を揺るがせている。

ネットRPG運営会社にとって、僕が思うに、「ハックサーバー」の乱立の可能性はRMT行為より脅威に感じているはずだと思う。
それは、前記の内容の通りに、参加者は新規より従来参加者が多いと思われ、他の競合ゲームも多いことから、新規参加者の大幅増加は期待できない。
よってビジネスとして利益を求める為には、ゲーム参加者を増やす為にゲームが出来る国を増やすことになる。元々ネットRPGのビジネスプランではグローバ ル展開が盛り込まれていて、それがバージョンアップ開発および運用費への増分支出根拠ともなっていると思う。かつグロバール展開の前提として不正コピー不 可があることに間違いはない。それが崩れるとしたら、ビジネスプラン全体が成り立たなくなる恐れが出てくる。

ネットRPG側からみると、RMT行為によるリスクは増大傾向にあるにせよ、全体から見るとまだ無視できる状況にある。それにRMTにおける問題の 難しさは、運営会社側での対応が難しい事なので、彼らにとっては法律の整備を期待するところが大きい様に思える。尚かつ、仮に日本での運用が失敗に終わっ ても、その他の地域で元を回収できれば問題はない。ネットRPGゲーム自体がプレイヤーにとって入れ替え可能であれば、逆にネットPRGゲームにとっても プレイヤーは国単位で入れ替え可能なのだ。
ただし「ハックサーバー」はそう言うわけにはいかない為、彼らにとってはRMT行為より脅威に感じる結果になる。

ただ見方を変えれば「ハックサーバー」の存在はネットRPGゲームへの不満がその動機にあるように思える。「ハックサーバー」への対応は技術問題へ 移行しがちではあるが、本質的な問題点を分析し、今後のゲームへの対応に生かされない限り、所謂「モグラたたき」的な状況になるだけで、真の解決には至ら ないように思える。しかも「ハックサーバー」への問題重視へのシフトの結果、残るは置き去りにされたプレイヤーとなるのは目に見えている。

上記の様な状況下で、僕はそれでもミューを楽しんでいる。実際の所、僕にとってはRMT行為もハックサーバーも無縁な存在だ。結果的に僕のキャラは 常に貧乏でもある。これをいわば「清貧」と言うのだろうと、一人自己満足になっている感もあるが、僕がゲームに求めているのがコミュニケーションを楽しむ ことでもあるので、それが気にしない大きな理由でもあると思う。仲間達とパーティーを組んで一緒に遊ぶことは本当に楽しい。そう言う僕が、ミューを背景に したネットRPGゲームを語ること自体に問題があるのかもしれないが・・・

僕が思うに、RMT擁護派とRMT否定派の双方の意見が擁立する事自体、価値観が違うので、当然のことだと思う。それら双方を否定するつもりはな い。僕にとって問題となるのは、プレイヤーとして楽しく遊ぶ環境が脅かされる事だが、それ以上に個人的に気になるのは法律による規制への動きだ。

プレイヤーとしての僕は、楽しく遊ぶ事が脅かされる事象の背景として、RMTの存在を認める。よって心情的にはRMT否定派に近い。
ただ、それ以上にRMT否定と擁護の2者選択を心理的に強要する環境が嫌いである。勿論、ゲーム上においては、まだそこまで至ってはいないが、全体の気分の盛り上がりとして、そこに流れる可能性を感じてしまう。
なぜ遊びで、どちらかに決める必要があるのだろう。それを求められる時は、僕は第三の選択肢としてある「ゲームをやめる」を選ぶだけの話だ。一緒に遊ぶ仲間達を除き、ゲーム自体は僕にとって入れ替え可能だからだ。

RMTは実際ネットRPGの草分けである「ウルティマオンライン」が始まった時から行われていると思う。それでも未だに「ウルティマオンライン」は 存続し続けている。ネットRPG運営会社から見ると、ビジネスプランの中で過去の経験からRMTについては盛り込み済みと考えられる。そして現行の状況で は、多分許容範囲内なのだろう。それが許容限界値近くになると法規制への動きになって現れると思う。

RMTは、詐欺行為およびその他の犯罪の温床になる可能性があると、指摘される場合があるが、それらは現行の法手順での解決が可能だと思う。なおか つ温床の規模が広がる可能性も否定できないが、現実的に考えてみて、他のネット利用と較べると個人的には広がるとは想像できない。

その中でRMT規制を法案化しようとする動きが、各ネットRPG運営会社側にある。僕はこの規制法案に付いては全面的に反対である。勿論どういう内 容を考えているのか、現状では全く不明であるが、規制を与えることにより、その他のネットの健全な利用も阻害される可能性が十分に考えられるからだ。

それにミューを中心に考えると、最近運営会社自体が始めた「RMTもどき」のサービスがあるが、これについてミュー内では批判を行うプレイヤーも多 い。僕にとっては「顧客囲い込み」のサービスの一環であって、ビジネス的には著作権を所有する仮想物品を売ること自体、問題のある行為ではないと思ってい る。
問題はミューにおける利用規約との整合性の問題とプレイヤーからの批判に対し何も行わない事だと思っている。
最近ミュー公式HPではプレイヤーからの批判が多いため、掲示板を閉鎖した。そして閉鎖の理由も明らかにされていない。過去においても、バージョンアップ延期を行った際に、プレイヤーの能力値不足を理由に挙げていた事もあった。
これらの事を考えると、ミューの運営会社は体質的に被害者意識が強い様に思えてしかたがない。その被害者意識の強さから、法規制に流れる事は容易に想像できる。

僕にとって、ミューを前提に考えると、運営会社にとっては問題が山積みだと思うが、まずやらなくてはいけないことは、プレイヤーに根付いた不信感を晴らすことだと思う。外部要因の不安材料があるにしても、まずは内部要因への対応だと思う。
多くのビジネスが内部要因への対応不足から潰れていったことを忘れてはならない。

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