2004/12/25

「アイムホーム」からみたビジネスのタイミング

NHKドラマで「アイムホーム」放映中に、原作である石坂啓さんの漫画を再読したいと思い、色々な書店を回った事があった。勿論帰宅途中での書店回りだったのだが、ことごとく書店には既に在庫がなかった。ある書店では、気を利かせてくれて出版元に問い合わせをしてくれたが、出版元にも在庫は無いとの事だった。NHKのドラマサイトを見ると、原作本は書店に問い合わせてとの事だったので、絶版とは考えづらい。単に再版していないだけの事なのだと思うが、この状態を見て、出版元は1つのビジネスチャンスを逃してしまったのではと思ってしまった。

勿論、この考えは読みたいと思う気持ちが叶えられずに、気が晴れない僕の気持ちから来ている事は間違いない。つまりは大いに独りよがりの意見である可能性も高い。

ビデオリサーチの視聴率調査では「アイムホーム」最終回はドラマ部門でTOP10には入っていない。多分視聴率は10%付近位だと思う。Googleでの検索件数は約7千件くらい。ただネットで感想を調べると概ね好意的なようだし、DVDの販売を希望する声もあがっている。全国に点在する漫画喫茶への販売も期待できるので、再版を行えば少なくとも1万セットは売れたのではないだろうか。

元々「アイムホーム」は上下2巻での構成だった。再版を行う場合、サイズは多少大きめにして、各1冊千円上で売るとすれば、1万セットで約2千万円上の売上げとなる。勿論書籍の帯にはドラマの出演者の写真と原作である旨の表示をする事になるし、さらにプロモーションを考えれば、版を重ねることにも繋がるかもしれない。

損益分岐点がどのくらいなのかは不明だが、構造的不況にある出版業界の状況を見れば、十分にビジネスとして成立するのではないかと考えるがどうであろうか。

ただし、上記イメージの前提は出版タイミングが正しければの話であって、ドラマが終了している今となっては、再版時期を逸していることは間違いない。
再版を行うためには、印刷を行う数ヶ月前には企画が社内で了承されている必要があると思う。企画書には、再版のメリットが説得力を持って書かれていなければならない。その為には「アイムホーム」がドラマ化する情報だけでなく、配役とスタッフの内容も正確に押さえておく必要がある。特に重要なのは、脚本家の実績だとおもう。脚本家によって、そのドラマの好感度はある程度予測可能になるだろう。「アイムホーム」はこの点についても十分に再版検討の余地があったはずだと思う。勿論、出版元に検討するパワーがあればの話が前提なのだが。

出版元からみると、年間を通じて多くの新番組が登場している中で、いちいち調査・検討を行う余地はないのかもしれない。またテレビ原作本だけでなく、新たに出版を企画している書籍が星の数ほどある状態も、過去のコンテンツは気にされない要因になっているのかもしれない。

ただ出版業界の現状は、概ね新たなヒット商品の追求に力を注いでいるように思えて仕方がない。多分、出版元企業の社員評価もそれに準じていると予測できるので、新たなヒット商品追求に向かうのはは体制上致し方ないのかもしれない。

確かにヒット商品による新市場開拓の魅力も十分にわかる。でも簡単にはヒット商品が得られない現状において、過去のコンテンツでも版権を所有している内は、売れるタイミングで売るのもビジネスの1つの姿だと思う。勿論1件単位で見れば、少額で地道なビジネスではあるとは思うが、束ねれば出版元にとっても十分にメリットが出ると思う。

問題はそれほど単純ではないかもしれないが、過去のコンテンツをタイミング良く掘り起こせない(と思われる)出版元の問題は、情報収集と分析能力にあるのでなく、その評価システムに1因があるように感じる。


追記:
原作本である漫画とドラマ版では、物語の終わりが違っていたと思う。原作の場合は、たしか最後まで主人公の妻は仮面を付けたままであった。
仮面の妻は火災にあった家を見て、家が無くなったと言うが、その時に主人公は妻に、君たちが僕にとっての帰るべきホーム、だと言う。その言葉を聞いて仮面の妻は涙を流す。こんな終わり方だったと思った。漫画の方がよりリアリティを感じられたが、この際漫画版とドラマ版とは違う物語と考えれば良いのかもしれない。違いは発表したメディアの違い、もしくは社会状況の違い等々、色々と考えられる。それらも含め知りたくなり原作本を探した。

帰宅途中の漫画喫茶にも置いてあるかを確認したが、石坂啓さんの作品でおいてあるのは代表作の「キスより簡単」くらいのものだった。

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