2005/04/20

Newsweekの記事に掲載している写真

あらかじめ述べるが、この記事には政治的な意図は何もない。ただNewsweek日本語版に掲載していた記事「イラクに散った親子のきずな」の写真が気になっただけである。実を言うと記事も読んでいない。掲載していた写真がインパクトがあり、記事を読む気がしなくなったのだ。
該当の写真はイラクで亡くなられた陸軍スティーブン・バートリーノ2等軍曹の家族の写真である。写真の構成を文章で語ると以下のようになる。

1.場所は郊外の住宅地にある、何かの運動場。家族の足下はまばらになった芝生の上に立っている。運動場の垣根とそのむこうには家々が立ち並ぶ。上空は雲がかかり、少し暗い。
2.家族は母親を入れて5人。中央に赤いセーターを着た軍曹の奥さん。すこし顎をあげて視線を上に向けている。彼女の両手は末っ子の男の子を背中から抱くような感じで、男の子の胸あたりで交差している。
3.末っ子の男の子は父親に与えられた勲章を両手で少し持ち、それを正面に見せている。
4.奥さんと末っ子の両脇には長男と次男らしき男の子が立っている。男の子たちは中学か高校生くらいで、二人とも両手をポケットに入れている。
5.この4人の頭を結ぶと綺麗な菱形となるような位置関係となっている。
6.4人に少し離れて右側に少女が一人立っている。小学生の少女で少し暗めのブルーのセーターを着ている。少女の距離は少し遠く、遠近感により、かれら4人と較べてかなり小さく見える。

Newsweekはムック形式の雑誌で薄いこともあり、読むときは多分半分に折って読むことだろう。そして半分に折ったとき、この4人と少女は綺麗に別れる。
この写真だけを見ると、健気に父親の勲章を持っている男の子と、これから頑張って生きようとする母親、そして二人を守っている兄弟の印象を受ける。彼らと離れ、一人少女が父親の不在を悲しんでいる。

僕は、この写真の見方に、自分の解釈を入れないように努力して書いたつもりだ。見ればわかるが、その様に写真が撮られているのだ。Newsweekのような一般向け雑誌であれば、このような商業的な撮り方をするのは理解できるが、でも少しやりすぎではないかと僕は思った。あまりにも意図的な構図に、少し嫌な印象を持つ。

このような構図の写真が、記事「イラクに散った親子のきずな」には到る処で使われている。
スティーブン・バートリーノ2等軍曹が、どのような状況で亡くなられたのか僕は知らない。勿論、彼の人となりも知るよしもない。ただ役割を担い、その役割に殉じて亡くなられたことだろう。その役割が彼本人の望むところでなかったにせよ、彼は一陸軍兵士として死んでいった。それについて、僕はなんの感慨も持たない。

ただ、この写真で彼は再び別の役割を担う事になるのかもしれない。しかもそれを家族が後押しするのである。それをなんと言ったらよいのであろうか。

人は他人を見て「誰」と聞く前に「何」と聞く。あなたは何者?そう多くの人は、お互いに聞き合うことだろう。「何」とはその人の社会的な役割を指し示しているように思う。「誰」から「何」への還元は「殺人」に等しい行為と見なしたのはレヴィナスだった。だとすると、スティーブン・バートリーノ2等軍曹は家族の手で2度目の死を迎えることになる。

僕がこの写真に感じることは、そういった残酷性だった。これは報道写真ではない。もし普通の感覚を持ったカメラマンであれば、このような構図を意図的には造らないはずだ。そう思う。
Newsweekのような雑誌であれば、商業性から見て当然の構図かも知れない。掲載すべき写真はこうあるべきなのだろう。でも正直言って僕はこの写真の構図に少し吐き気を感じる。

翻って自分のことを考える。最近の僕はワシリー・グロスマンの死に方が気になって仕方がなかった。脱稿後即時KGBに押収された小説「人生と運命」を書くような作家である。しかも執筆後から近い年に亡くなられている。僕はそこに何らかの事態が起きたのだと感じている。
しかし、さらに考えてみれば、僕にとって、スターリニズム批判を行うような作家は、あの時代において無惨な死を迎えなくてはならない、という思いが底にあるのも事実だった。

逆に言えば、僕はワシリー・グロスマンに何らかの役目を背負わせたかったのかもしれない。それは、僕の中で彼の二度目の死を迎えさせることに繋がる。
今回このNewsweekの写真を見て、僕はそんなことに気が付いた。だから、ワシリー・グロスマンの死のことはこれ以上詮索するつもりはない。

正直言えば、今回ブログにNewsweekの写真の事を書くかどうか少し迷った。書き方を誤れば、僕の中でスティーブン・バートリーノ2等軍曹に対し3度目の死を与えてしまうからだ。それは僕の望むところでは絶対にない。少しわかりづらい文章になったとしたら、それはその配慮からだと思って欲しい。

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