2009/11/25

2009年11月15日 晴れ時々散歩

半蔵門線の水天宮駅で降りたのはたんなる気まぐれだった。最近写真の趣味を兼ねた散歩は地元付近から少し離れつつある。といっても沿線上だからそれほどたいしたことでもないが。

半蔵門線水天宮駅は人形町の水天宮に近い。降りると七五三のお参りをする人たちが多かった。思い思いの着物を着た(殆どの子供は着物姿だった)子供たちが親に連れられてちょこちょこと歩く姿は見ているだけで楽しい。でも親は一所懸命だ。子供が走り出すのを追いかける和服姿のお母さん。デジタルカメラで写真を撮るお父さん。おじいちゃんおばあちゃんは皆良い表情をしている。

古い写真だが、僕にも七五三の写真がある。姉と一緒に千歳飴をもち多少緊張した面持ちで写っていた。姉が歯が痛く顔を多少歪めている。僕にとってその日の記憶は殆どない。ただ写真が残っていることで、それが契機になってほんの僅かな記憶の断片が蘇る。

今日の散歩では50mm(F1.4)を1本のみだった。デジタルカメラの場合、35mm換算では50mm焦点のレンズは約75mmのレンズとなる。それは僕が好んで撮る光景には合わなく、普段は殆ど使ってはいない。でもたまにはと練習を兼ねて持ち出したのだが、慣れるのに最後まで苦労した。ただ背景のボケは普段持ち歩いている30mm(F1.4)よりは美しいように感じられた。レンズが変ると写真の雰囲気ががらりと変り、そのレンズに慣れるのに時間がかかる。

僕はどちらかと言えば絞り優先での撮影が多い。ゆえにどうしても絞り値が変るようなズーム系レンズは苦手となる。かといって開放値が変らないズームは高い。さらに言えばズームは重たい。で、結局レンズはズーム系ではなく単焦点レンズとなる。近寄りたければ自分の足で、それも僕には合っている。

途中から50mmでの散歩は難しいなと思い始めていた。次からはやはり30mmにしよう。
こういうふうにカメラのハード面を考える時の写真は良くはない。少なくとも僕にとってはそうだ。カメラのことなんか気にしたくはない。そうじゃなく写真のことを気にしたい。それに自分のイメージが先行するような写真も撮りたくはない。ただ何となく撮った写真が何となく良い、そんな感じの写真が撮れたら最高なのだ。

水天宮を離れた僕は隅田川の方面へと向かった。人通りは少ない。平日であれば会社員達で埋まると思われる大通りは地元の人たちが自転車で行き来する。こういう雰囲気が好きだ。東京はどこに行っても人が多いといわれるが、実際は偏っているだけなのだと思う。人が集まる場所に行けば多いに決まっているが、その分殆ど人がいない場所もでてくる。平日のオフィス街。平日の官公庁街、問屋さん街などなど。それらの場所の平日にはない空気感が心地良い。

歩くと芭蕉記念館があるという。僕はとりあえずの目的地としてそこを選ぶ。芭蕉記念館はこじんまりとした記念館だ。僕は中には入らず、案内板で芭蕉庵の史跡庭園が近くにあると言うのでそちらの方に向かった。歩きながら、ここが深川なのだと意識する。
江戸と言えば日本橋だけではなく深川とも言える。深川は江戸の頃は殆ど海岸であったという。そういう思いを馳せながら、僕は隅田川沿いを歩く。

史跡庭園の隣に面白い店があった。「深川番所」というアートギャラリー、そしてその1階にある「そら庵」というブックカフェ。こういう店を見つけると思わず入りたくなる。僕は迷うことなく深川番所へと階段を登った。そこでは 「しゅんしゅん 点と線の間にあるもの スケッチ」展が開催されていた。気持ちの良い空間に配置した彼の素描が心地良い。とてもこの空間に合っている。そう思いながら観ていると、どこかで見かけたような女性と眼が合った。

偶然の出会いとはこういうことを言うのだろう。その方は写真サイトの繋がりで何回か会った事がある女性だった。一瞬戸惑うが、向こうは平然と挨拶をしてくる。その平然さにますます混乱する。
聞けば、この深川番所の番頭役のかたが同じ写真サイトの繋がりで来たのだと言う。僕を見かけたとき同じ流れで来たのだと、さして驚かなかったようなのだ。

でも僕のほうはそういうことは一切知らない。ただ、たまたま何気なく入ったギャラリーで、しかも芭蕉の史跡とはいえ、それほど人が多くない場所で、見知った人がいるとは想像だにできなかったのだから。この幸運な偶然の出会いによって僕はその「深川番所」の番頭さんと、ギャラリーでの展示者であるしゅんしゅんさんと知り合うことが出来た。
お二人とも若いがとてもクリエイティブな方たちだ。何かを造り出そうとする人たちは、若者たちに対し色々と言われているが、案外に多いような気もしている。そしてそれであれば、これも案外に、この国の将来はそんなに悪くはないかもしれない。

ギャラリーの下にあるブックカフェ「そら庵」はとても気持ちの良い空間だった。コーヒー・紅茶300円でいつまでもいて構わないのだそうだ。こういう店も増えてきている。
少しずつ今までの価値観が変りつつある、そんな気にさせる。

深川番所:http://gallery.kawaban.net/
そら庵:http://www.geocities.jp/sora_an_111/

それから僕は清澄白河まで行き、そこから電車に乗って帰った。
その間では芭蕉史跡の展望台へも行ったし、2~3の隅田川支流の橋も渡った。また清澄白河の商店街、のらくろという漫画の主人公がイメージキャラクターになっている、に行き閑散とした商店街の歩行者天国も歩いた。歩きながら隅田川の川沿いとか商店街などに懐かしさを覚えているのに気が付いた。昔、僕が子供だった頃、こういう風景に僕も囲まれていたような、そんな印象を持ったのだ。

それは夏が知らずに終わり、そしていつの間にか秋も過ぎようとする中で、僕に与えてくれた突然のささやかな贈り物のように思えた。また来週もここに来ようか、うん、その時のレンズは30mmを持ってこよう。それ以上にそら庵で読むべき本も忘れずに持ってこよう。そんなことを考えていた。

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