2009/11/02

弱い紐帯の強さ、もしくは新GREEに関する消極的捕捉

NTTドコモが主催している「iのあるメール大賞」の投稿作品を少し読んでみた。それぞれが素晴らしい。携帯でのメールという短い文章に、送る方の、大げさな表現を使えば、万感の思いが、ちゃんと受け取る方に伝わっている。
(iのあるメール大賞:http://i-arumail.jp/pc/PcIndex.html

例えばこんな携帯メールがあった。ご主人と結婚をされた25年前、散髪は奥さんが行っていた。
でも素人ゆえにご主人の頭は段違い平行棒のように段々がはっきりと見えてしまい、会社に行く手前、それ以降は近所の床屋に行くようになったそうだ。定年退職を迎える時、ご主人の髪の毛が少し伸びたと思った奥さんは、そろそろ床屋に行ったら、とメールをする。
ご主人からの返信は・・・「お母さんでいいよ」。
それを読まれた奥さんは涙があふれるのを止めることができなかったのだそうだ。このメールにはご主人の奥様への思いが言葉に語れぬほど詰まっている。

絆の強さとは文字数ではない。ただ絆を深めるためには、様々な積み重ねが必要なのだ。積み重ねの結果として、この短い返信メールがある。積み重ねもなく、短いメール文章の繰り返しだけで絆を強めることなど到底出来ない。

ただSNSに強い絆を求めることは何か違うようにも思う。SNSの場合、絆が弱いことに意味がある様に思えるからだ。

1973年に社会学者のマーク・S・グラノヴェターは一つの仮説を立てた。その論文はネットワーク理論の古典として今でも広く読まれている。「弱い紐帯の強さ」と題するこの論文は、強い紐帯(家族、親友、仕事仲間)だけの結びつきであれば、そのネットワークは同質性や類似性が強まり、ネットワークとして孤立する傾向にあると言う。そして弱い紐帯は強いネットワーク同士を結びつけるブリッジのようなものだと語る。

SNSのような結びつきは人間関係の絆としてはとても弱い。そしてその弱さがSNSでの醍醐味とも言える。逆に、だからこそ普段では知りえない人の考え方、様々な視点を得られるともいえる。
例えば、リアルであればこれほど多くの友人と均等に付き合えることは難しい。強い絆で造られたグループは、属する人にとっては極めて重要なのは間違いないが、硬直化しやすいし、そのグループの中では発言出来ないことも多い。

また論文「弱い紐帯の強さ」では、弱い紐帯によって伝達される情報や知識は、受け手にとって価値が高いことが多い、とも分析している。GREE・mixiなどのSNSの基本的な考え方は、この36年前のネットワーク理論を基礎にしているのは間違いない。ネットワーク的視点で俯瞰すれば、SNSに参加することはハブとしてのネットワークへの紐帯を作る事と言えるかもしれない。

弱い紐帯だからこそ、SNSでは出会いと別れが日常茶飯となる。そしてその繰り返しから全く新たな結びつきが生まれるのだと思う。この短い周期でのダイナミズムがSNSの醍醐味だとも思うのである。しかしネットワーク理論と言っても、そこにあるのは結びつきの紐の話でしかない。結びついたのは人間同士なのだから、そこにはきちんとした人間関係の構築と維持があるとは思う。

人間関係の深さは文字数では決まらない。仕事で多くの言葉を語り、そして受け止めたとしても、退職すればその繋がりは絶える。仕事関係などの強い結びつきでもそうなのだからSNSの場合はなおさらのことだろう。

僕の場合、何事も長文になる傾向がある。それは単に僕の趣味でしかない。長文で書くことが、SNSで弱い紐帯を少しは強めることが出来るのかと自問すれば、読み手の価値観がそこに係わるため、僕にはなんとも言いようがない。

今後のSNSの動向は、さらにTwitter化の加速が進むように思われる。それは弱い紐帯の広がりを示している。ただ弱い紐帯が人に占める割合が高くなればなるほど、強い紐帯が脅かされることにならないだろうか。そういう状態が続くとき、逆に反発として強い結びつきを求める方向に転化するこもありえるだろう、既にそうなっているのかもしれないが。
(例えば、家族・仲間の絆の強さを強調するTVドラマが多くなっているとか。ただこれらは寧ろマスコミが存続のためにそれらを指向せざるを得ない状況にあるともいえるので、例としては悪いかもしれない)

僕は前回の日記で、新GREEへの変化は遅すぎたとも見える、と書いた。それは早くリニューアルすべきだったという意味ではない。遅すぎたのだから、Webサービスの流行に乗るのではなく、さらにその先を行く内容でリニューアルすべきだ、を暗に含めたつもりだ。

そしてその先とは、弱い紐帯での関係を、少しでも強くすることへの指向ではないかと思う。SNSの歴史を考えると、リアルでの強い紐帯をそのままネット上にかぶせたことから始まり、紐帯は徐々に弱い方向に向かい、そして携帯からの多くの加入によりかなり弱まった、と言える。そのかなり弱い紐帯を多少なりとも強める方向に、新たな技術を使い指向することと僕には思える。

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CNETで本件に係わる記事があったので紹介します。そこでGREEのリニューアルで、旧GREEのPC版はなかったことになりました、と軽く答えている。利用者をここまで考えない企業が今の日本に存在するとは、少し信じられない気持ちだ。
『グリーの田中氏は今回のリニューアルについて、「ひとこと機能を中心にして、よりリアルタイムなSNSにするというのが趣旨です。Twitterのようなサービスが最近流行っていることを受けて、日記を書き合うという昔のスタイルから、もっとリアルタイムにいま何しているかを書き合うように全面的に変えました。過去のPC版は完全に一新され、なかったことになりました」と語る。』
(CNETより引用)

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