2005/09/14

「ブラック・ラグーン」小論

200509143ab0fd3f.jpg人が生きるとは自らの欲望を充足するためだと仮定してみる。そうすると「ブラック・ラグーン」に搭乗するキャラ達の行動が理解できる。

「ブラック・ラグーン」とは「月刊サンデーGX」に連載中のマンガである。掃海艇を使う運び屋のラグーン商会のメンバーを中心に物語は進行する。元軍人の印象を持つラグーン商会トップのダッチ、米国フロリダの大学でハッキング行為によりマフィアとFBIに追われたペニー、二丁拳銃の異名を持つ中国系米国人のレヴィ、そして企業の利益と存続のために見捨てられた「岡島緑郎」ことロック、この4人がラグーン商会のメンバーであるが、物語はロックがラグーン商会に捕まる所から始まる。

マンガのジャンル分けについては、まぁどうでも良いことかもしれない、でもあえて僕のイメージを言えば、「ヘルシンク」のスプラッタ系と萌え系をあわせた感じに近い。僕にとってこのマンガで面白いのは、登場するキャラ達のセリフにある。「ブラック・ラグーン」のキャラ達は実に多弁である。そしてその内容は直線的でとても理解しやすい。さらに各々の物語は筋において破綻が少なく、きちんと作者の世界観が感じられる。これらによって、このマンガは多分多くの人の共感を得られているような気がする。勿論描写が過激な箇所もあるので嫌いな方も多いとは思うが。

僕の中で「ブラック・ラグーン」を語る際どうしても避けられない話がある。これからそれを書こうと思う。「ブラック・ラグーン」の中心人物は誰かと問われれば、言わずもがな、ロックとレヴィにあるのは間違いない。逆に言えば、この二人の関係を考えれば自ずから「ブラック・ラグーン」のことがわかるように思う。

ある時二人は故障により浮上しないまま沈んだナチスドイツ潜水艦に放置された一枚の絵を回収する依頼を受け潜水艦にたどり着く。そこではさながら地下墓地のように白骨遺体が横たわっている。そこでお目当ての絵を回収した後でレヴィは白骨化したドイツ兵の遺体から十字章等の高値で売れる物品を押収してくる。それについてロックはレヴィの行為を否定する。レヴィは骸骨と十字章を両手に持ち、ロックに問いかける。「この二つは何だ」と。ロックは「十字章と骸骨」であることを告げるが、レヴィは「違う」という。これらは還元すれば「もの」であるというのである。さらにこの「もの」には「カネ」という価値がつけられ、「カネ」は力を意味する。レヴィが言うには人の欲望はそこに還元することになる。それを違った言葉に言い直すことも、正面でそれを否定するのは偽善的行為だと彼女は断定する。ロックの否定はレヴィにとって彼女の生き方に対する侮辱である。だからレヴィは金輪際同じことを言うなとロックに言い、言えば殺すと告げる。

次の章でこの話は再び繰り返される。繰り返したのはロックからだった。ロックは「俺は間違っていないし、(お前に)謝るつもりもない」とレヴィに言う。レヴィは怒りロックに銃を向けるが、ロックはレヴィの銃をつかみ弾道をそらし「銃では解決できないこともある」と彼女に対し言い、続けて「カネカネと言うお前には誇りはないのか」と問う。ロックの言いたいことは、人が生きるというのは難しい、それを理解せずに自分の不全感だけを主張し、自分が与えられた状況に悲観するのは卑怯だと言うのだ。そしてレヴィのその考えは、カネと立場を守るためにロックを切り捨てた連中と同根だと言うのである。そして、自分の何かを吹っ切ってくれたレヴィが、それを語ることに拘るのである。

生きるのが難しいとの感覚は誰もが抱いている、と僕は思う。どういうときに難しいと感じるのであろうか。それは様々な関係の中で、自分自身が生きていく何かを見失ったとき、もしくはその実現が難しいとき、生き難さを感じるのではないかと僕は思う。その時人は「モノ」と「カネ」に行きやすい。それらはある程度自分自身で充足可能であるからだ。でも本質的にそれは様々な関係の中で見失った何かではない。だから一時的に行き難さの苦痛を和らげてくれるかもしれないが、モルヒネが切れて痛みが戻るときモルヒネを求めるように、際限なく求め続ける様になると僕は思う。ロックはそのことを知っていた。それ故、レヴィがこのままでは破綻することも見えていた。だから、自分がレヴィに撃たれることを承知で言ったのかもしれない。また、ロックはレヴィに認めてもらいたかった。ロックにとってレヴィは自分の生の中で重く関係する存在なのである。レヴィに認めてもらうことはロック自身の生き難さをある意味和らげることに繋がるのかもしれない。

ロックとレヴィのやりとりでもレヴィの世界観は何も変わらないのかもしれない。それにロックの言い分がレヴィに正確に伝わったとも思えない。その人の一回限りの人生において、何に拘り何をしたいのかの中身が何であれ、生き難さが十分に無くなることなどないとも思うのだ。ただ一つだけ言えることは、レヴィはロックの世界観を、これらの出来事で了解したと言うことは間違いない。その世界観はレヴィとは全く違う、でも彼女はそれを認めた。認めることにより「ブラック・ラグーン」でのレヴィの生き方は少しずつ変化していく。現在進行中の物語(日本編)では、レヴィはロックの「銃」としてロックの命を守るためにだけ在るのである。そういう見方をすれば、このマンガはレヴィというガンマンがロックを通して変化する過程を描いていると言っても良いかもしれない。

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