2008/02/27

「タスポ」その導入経緯 メモ

今年から開始する「taspo(タスポ)」について書きたいと思う。きっかけはnikkeiBPの記事「たばこカード「タスポ」、その導入経緯に怒れ!」(政治アナリスト 花岡 信昭氏 2008年2月14日)だった。花岡氏の記事は概ね正しい。ただ一つ意図的かもしれないが書いていないこともある。
「それにしても、2700万人がかかわる個人カードの導入、たばこ小売販売店への行政指導が、業界と財務省の意向 だけで決まってしまうのは、いかにも無神経すぎる。国会で大問題になったという話も聞かない。たばこ購入カー ドを強制され、たばこを買うことだけの番号が勝手に付けられる。国民としては怒りの声を上げていいはずだ。これは昨今の嫌煙ブームとは別次元の話である。」
カード導入の契機になったのは、花岡氏の記事にもあるように「2005年2月に発効した「たばこ規制枠組み条約」で未成年の自販機でのたばこ購入を防ぐ義務が締結国に課せられたことによる」。日本は本条約に2004年3月9日に96カ国目に署名した。その後衆参両議院で全会一致で承認をされ、同年6月8日に条約の受諾書を国連事務総長に寄託した。19カ国目だったという。条約は同年11月29日に批准国が40カ国になったので、90日後の2005年2月27日に発効となった。

本条約は1999年に起草されたが、起草段階からアメリカと日本など反対により採択が危ぶまれた経緯があった。ちなみにアメリカは署名はしているが現在でも批准はしていない。日本が急転し採択と署名を行ったとき、時の財務大臣 谷垣禎一は「国民の命には代えられない」と語ったという。

「タスポ」導入経緯は財務省審議会である「たばこ事業等分科会」(2005年3月29日)の議事録を読めばある程度会議での空気感を読み取ることが出来る。そこでは条約を批准するにあたり、自動販売機を全て撤去するか、もしくはICカード販売機を設置するかの瀬戸際の中で、業者と財務省がICカード販売機実現への舵取りをしている様が現れている。日本たばこ産業からの出席者はICカード販売機を「成人識別機能付自販機」と呼び、鹿児島種子島での導入検証において未成年のたばこ購入に関して効果があったかのように語る。

「タスポ」導入検討は、たばこ業界で1999年から開始している。これは条約の起草が開始した年でもある。たばこ業界単独での導入検討を開始する事は考えようもなく、ここでも財務省との緊密な連携が想定される。つまりは、条約起草時に反対していた日本の立場は、財務省にとっては自動販売機の撤去をすることなく、条約を批准する仕方を模索するための準備期間であったと思えないこともない。

花岡氏の記事では、国民の議論なしでの導入経緯に問題があるとしているが、仮に議論があったとして、その方向は喫煙率が約30%のこの国では概ね流れは定まる。たばこ事業等分科会では警察が自販機の撤去を将来求める発言もしている。また、2005年3月29日の第九回分科会の後に、「子どもに無煙環境を」推進協議会会長の名前で、ICカード自販機の導入中止、全自販機の撤去、たばこ税率の引き上げ等を求める要望が谷垣禎一財務大臣宛に提出されている。その時点での方向は、自動販売機の段階的撤去の流れが確かにあったのである。

また、国民の議論なしと花岡氏は語るが、それを言えば、条約への署名と、その後の衆参両議院での全会一致による承認をどのように捉えるのであろうか。この問題は常に言われている代表制の矛盾でもあるが、いまここで語ることでもない。結局たばこ業界は、たばこの需要が減っていくことが世の流れとしても、急激な変化を求めなかった。そこが税収の立場から同じように考えていた財務省と利害が一致した、というわけだ。そこで準備を怠らなかった両者が全自動販売機撤去の危機を「タスポ」で乗り切ろうとし、ひとまずは乗り切った、ということだろう。

確かに「タスポ」は不完全で中途半端でしかもコストがかかる。たばこに関する規制(アーキテクチャ)としては寿命が短そうなのは誰でもわかる。ただ「タスポ」により得られるデータは、今後のたばこ税引き上げによるたばこの需要と税収予測、さらには個人まで追いかけることにより、様々な疫学上のデータ取得にもなり得て、今後の施策への貴重な根拠となることだろう。そして両者にとってはそれだけでも「タスポ」の役割は十分に満足するように思える。

僕は「タスポ」の導入経緯で怒りを覚えることはない。これは様々な環境管理のなかの一つでしかない。

(参考)
「たばこカード「タスポ」、その導入経緯に怒れ!」
「たばこ規制枠組み条約」(外務省)
「たばこ事業等分科会」(2005年3月29日)議事録
Wikipedia「たばこ規制枠組み条約」
「子どもに無煙環境を」推進協議会
「導入中止の進言要請書」

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