2006/11/18

木登り猫


猫は木に登る。これは周知の事実だと思うが、でも実際は木に登る猫を見かけることは少ない。街の中では猫が登れそうな木が少ないこともあるのかもしれないが、大体は塀を通り道にして行きたい場所に向かう。
猫が木に登るには、登るだけの理由が必ずそこにある。例えば獲物を追いかけてとか、逆に追いかけられて逃げるためとか。
そして木に登った猫たちは、降りるとき一様に苦労することになる。彼らは登るときもそうだが、降りるときも頭を先にして降りるしかないのだ。だから勢い余って木の高見に登った猫は、場合により自分の力で降りることが難しくなるときもある。
そう言えば以前に木の上で丸くなって休んでいる猫を見かけたことがある。その猫はアリスに登場するチェシャー猫のように、丁度通り道の真上の枝にいて見下ろしていた。でも彼はチェシャー猫の様に笑ってはいなかった。不審者が下を通るたびに怯えたような目をして相手を凝視していた。
彼がどうして、もしくはどうやって、その高さの枝まで辿り着いたのか、僕にはわからない。でも数時間後にその下を通り過ぎたときには猫はいなかったので、無事に降りることが出来たのだろう。
勢いで登ってしまい、降りるのに途方にくれたのだろうと僕は想像した。でも数日後、たまたま同じ場所を通った時、あの猫が同じ枝で丸くなっているのを見かけた。
実を言えば、その日だけでない。僕は何回か同じ猫がその枝で丸くなっているのを見かけた。その度に、初めて見かけたときのように、彼は怯えた目で僕を凝視していた。
明らかに彼は自分の意志で木に登っていた。そして枝の上で丸くなり、怯えたような目で下を通る人を眺めているのだ。より高見にいて獲物を捕まえる機会を待つのが猫族の習性なのかもしれないが、僕は彼以外で同じ様な行動をとった猫を今まで見たことがなかった。
その猫を見たのは今年の春の頃、梅花の季節が終わり桜の開花が間近だった頃の短い期間だった。桜の開花が始まり、花見の人達が増える頃、彼は姿を現さなくなり、全く見かけなくなった。
今頃どこでどうしているのだろう

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