少し前にauが「LISMO」を発表した時、僕は興味を持って詳細を気にした。
auが音楽を携帯電話の主要機能にするという噂が流布した頃、その噂の少し前に購入したW32Sが当然に「LISMO」に対応できると思いこんでいたからだ。僕は単純に携帯電話とPCが接続できさえすれば、あとはPCと携帯電話のソフトウェアの仕事だと思っていた。でも実際は違っていた。「LISMO」に対応するには「LISMO」対応機種でなければならなかった。
少し考えれば、現行携帯キャリア達のビジネスモデルとして、新機能は新機種によって実装される事くらい解るはずであった。でもその時は期待というか希望があった為、内心ガッカリしたのを覚えている。いつまで携帯キャリア達は、このスタイル、新機能は新機種にて実装される、を続けていくつもりなのだろうか。
矢継ぎ早に繰り出される携帯の新機能、それは安易に新機種で実装され、それがMNPを利用する側の動機にも成り、かつ機種変更などで既存利用者を囲い込む。そしてこのスタイルを続ける要として「インセンティブ」があるのは間違いない。つまり高価な携帯端末にて新機能を実装したとしても、購入者の絶対数が少なければ企業側メリットも少ないというわけだ。
さらに日本のMNP制度自体も「インセンティブ」ありきが前提になっているとも思う。また利用者側も携帯電話購入時に、当然に「インセンティブ」ありきの端末価格を想定している。しかも新機能は、一般にパケット量が増大する傾向がある。ゆえに、二段階定額制を敷いているauの場合、常に最大の定額料金支払いに繋がる。企業にとって見れば、従量制での不安定な収入より、しかも高額請求の場合徴収するのにコストもかかる、固定収入の方が安定しており計画も立てやすい、さらに個別では少ない請求なので徴収しやすい面もある。「インセンティブ」は携帯キャリアの、特にauにとっては、携帯ビジネスモデルを維持するための重要なツールなのだと思う。そしてそれは、キャリアだけに限らず、数多くの携帯端末販売店を産み出し、それを購入する人達を巻き込んでの話でもある。
一見すると、企業側、端末販売店、行政側、さらに利用者の総てが満足する制度のように思えてくる。でも本当にそうなのだろうか。僕にとって見れば、一つの携帯機種を長く使い続ける多くの利用者が不利益を被っているように思える。当たり前のことだが、各携帯キャリアが「インセンティブ」が出来ると言うことは、そのコストをある程度の短い期間で回収できると言うことでもある。そしてその回収には、機種変更を殆どしない人達からの企業利益も含まれているに違いない。
一度統計データを見てみたいと思う。機種変更の回数とサイクル期間、及びそれぞれの利益率などだ。僕の勝手な予想では、機種変更を多く行う人と行わない人のグループがきっちりと分けられると思う。つまりは、機種変更行う方は頻繁に行い、行わない人は数年間同一機種を使い続ける。そういう構図の中で「インセンティブ」の持続可能性が成り立つと僕は思う。
また別の見方をすれば、「インセンティブ」は、畢竟、端末の売り方の一つに過ぎない。そして売り方には様々な仕方が現有するのも事実である。例えば、リース方式でも、ローン方式でも良い、顧客が新機種を購入しやすく、しかも購入者の負担のみで賄える仕方は、アイデア次第でいくらでもあると僕は思う。
さらに「インセンティブ」でメーカーもしくは販売店に支払っていた「インセンティブ」用の原資を、携帯利用者にあまねく利益還元するべきだとも思う。具体的に言えば、通話料ならびにパケット料等の減額の事だ。ついでに言えば、携帯端末のより高度な標準化仕様の構築により、新機能が新機種により実装する頻度を出来るだけ少なくする様に配慮するべきとも思う。
これら3つの事項を積極的に進めること。それが日本の携帯事業を長く発展させる原動力になっていくと、私見だがそう思っている。その上で先だってのW44S発表会でのKDDI小野寺社長の言葉、「インセンティブなければワンセグの普及はない」、はいただけない。彼らがワンセグの普及に社会的意識をどのくらい強く持っているのか僕にはわからない。
確かに小野寺社長の言っていることはある意味正しい。しかし正確ではない。正確には「インセンティブなければワンセグの急激な立ち上がりもない」と言うべきだと思う。技術は必要であれば使われていくが、必要としなければ消滅する。ワンセグの技術的な詳細を僕は知らない、でも様々な携帯端末に合わせた仕様となっていると推察する。故にワンセグは、もともと仕様的には携帯系端末に広まる可能性を秘めている。後は市場が判断すると言うことだと思う。
(自由市場経済主義を僕は信奉しているわけではないが、ワンセグの場合は市場に委ねる表現が使えると思う)
小野寺社長がW44S発表会で「インセンティブ」の話と「ワンセグ」の話を結びつけたのは極めて単純な話だ。総務省から「インセンティブ」見直しが提言されていると言うことと、ワンセグ技術には周波数割当管理元である総務省が絡んでいるからだろう。小野寺社長の発言は、いわばワンセグを人質にとって総務省に物申す姿勢に近い。携帯キャリアにとって、ワンセグを携帯端末機能に付加しても、それがパケット料などに結びつくことはない。だから、ワンセグ携帯端末を販売することは、他社との競争もさることながら、気持ち的には総務省の意向を受けてがあるように思う。それ故の発言だと僕には思える。
僕にとって、それらの事柄は特に気にする事ではない。僕が小野寺社長の発言で気になるのは、何故、総務省との関係からくる発言を、利用者が注目する新機種発表会で行ったのかと言うことである。その発言という行為自体が、「インセンティブ」を利用者があまねく支持している、という事を、各携帯キャリアが信じている事の証左のように思えるからだ。少なくとも僕は、携帯が価格的に見て買いやすいのであれば、特に「インセンティブ」に拘るつもりは全くない。それは前記に述べた通りである。
だから小野寺社長の発言は、「インセンティブ」を続けるため、利用者を巻き込んで、いわば共犯者に仕立てられているような、そんな気分になったのである。さらに、この長く続いた「インセンティブ」に固執する様が、auもしくは日本の携帯事業自体が硬直化し、新たな展開を産みづらい状況下にあるように思えてくる。本来、新機種発表会にて、僕などが望む姿は、今後の携帯事業の展開であり、その流れの中で、今回発表する機種の位置づけである。残念ながら、そういう発言はauに留まらず、あまり聞かない。携帯事業の将来展望で聞くのは、飽くなき機能の追加でしかない。
既に日本の携帯事業は、ある意味「イノベーションのジレンマ」に陥っているかのような、そんな気さえしてくる。僕は個人的に言えば、au利用者だし、auを使い続けてきている。だから本当は応援したいのである。この記事も気持ち的には応援のつもりで書いている。
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