2006/11/07
門番猫
街を歩いているときに出会った猫。アパートと思われる入り口の塀に座っていた。自由が丘の街のはずれとはいえ、それでも様々な店が建ち並び、行き交う人も多い。その中を平然として置物のように座っている。
近くを通り過ぎるまで全く気が付かなかった。丁度、その猫の横を通り過ぎようとしたとき、ふと僕の視界に入った白い動物、ぱっと視線を向けると思わず猫と目と目があった。
カメラを構え、少しだけ猫に近づく。
たいていは、ここで猫は僕と等距離を保つ様に少し離れるはずだが、猫は微動だにしない。とても人間に慣れている感じだ。
いや、それ以上にこの場所では彼(彼女?)の方が主なのである。だから離れるとすれば当然に僕の方だと、そういった感じで猫は僕を眺める。
何枚か写真を撮ったとき、二人の女性が近づいて来た。母とその娘と思われる二人は、写真を撮っている僕の横に立ち、猫に話しかける。
「写真撮ってもらっているの。よかったわね。綺麗に撮ってもらわなくちゃね。」
その猫を見知っているかのような言葉を聞き、僕は彼女たちに話しかける。
「この猫の名前はなんて言うのですか?」
「え?」と母親らしき女性は少し首をかしげ、それから微笑んで、「さぁ・・・」と答え、さらに続ける。
「この猫、いつもここにいるんですよ。来る度にね、この猫に会いに来るんです。今日も会いに来たんです。」
「へぇー」と間抜けに頷く僕。あらためてこの猫を眺める。何か凄い猫だと思った。何が凄いのか皆目見当が付かないが、とにかく凄い猫だと思った。
母親の傍らにいた女の子が猫を見上げ、にこにこしながら猫に話しかける。
「かわいいねぇ、かわいいねぇ」
女の子の声は綺麗なソプラノで、僕にはそれがとても心地よく聞こえる。
「きっと私たちの話すことが猫にはわかるんだと思うわ」と母親が娘に向かって言う。
女の子はさらに何度も何度も「かわいいねぇ、かわいいねぇ」と猫に向かって話しかける。
すると、短くだがはっきりと、猫は「にゃー」と一回だけ鳴いた。その声を聞き二人は、無論僕も、満面の笑顔。
「かわいいねぇ、かわいいねぇ」
女の子の語りかける声が徐々に猫の鳴き声のように聞こえてくる。そして本当に女の子の言葉が猫に通じているのかもと思い始める。
女の子が見上げ猫がそれに応える様を、写真に撮ろうかと迷ったが、なにかしらそれは不謹慎な行為のように思え、僕はただ猫だけを写真に撮り続ける。
そしてしばらくして僕はその場を離れた。少し歩いて後ろを振り返ったら、まだ親子はその場で猫と話し続けていた。
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