マクドナルドは一人の時はよく利用する。手洗いに行きたいとき。少し休みたいとき。一杯100円のコーヒーは、美味しいというわけでもないが、とりたてて不味いというわけでもない。それよりもトイレ使用料、もしくは座席使用料として考えれば、かなり安い。
昨夜も帰りに少しだけ本でも読もうと、帰宅途中にあるマクドナルドに立ち寄った。思いの外混んでいた。僕は適当な席を探す。奥まった場所に一席だけ空いているのを発見した僕は、コーヒーを持ち、周囲にぶつからないように注視して進む。
その席は、店の一番奥に位置し、テーブルの真上に明かりがある。少しの時間とはいえ、読書をするには丁度良い。
座って気がついたのだが、隣の席には女性が二人座っていた。ちらりと、二人を見る。一人は年配者、でも着ている服は若く明るめである。そして上着に皮のジャケットを羽織っている。もう一人は若い感じで、少し地味な印象を持った。
それから僕は持っていた本を広げコーヒー片手に読み始めた。何故か、時として喫茶店の方が読書がはかどる時がある。丁度、通勤電車で読書をするのと同じ感覚である。図書館などの静まりかえった場所も良いが、喫茶店での読書も悪くない。
本を読み始めて間もないとき、年配の女性の声が聞こえた。少しハスキーな声だ。若い相手に丁寧な言葉を使って話しかけている。
「私ってギャンブラーなの、だから土日の仕事は絶対に嫌なの。土日は競馬に全時間をかけるのよ。もうそれしかない」
若い方は、ハスキーと言うより、柔らかく張りがある声で答える。
「私、最近auに切り替えたんです。」
(ん・・・)と僕は内心つぶやく。「競馬の話の答えが携帯・・・」
「え、どうして」と年配者。そして続けて、「私の名前のパチスロがあるのよ、凄いでしょ!」
年配の女性の髪の毛は長い。それを頻繁に手でかき分け話をする。
「本当ですか!今度教えて貰おうかな、パチスロ。auの前はソフトバンクだったんです。髪の毛綺麗ですね。」
(何故・・・こういう会話が成立するのだ)、とは僕の内心の言葉。その時点で既に本など読んでいない。
「ありがとう。なんでソフトバンクからauに切り替えたの。パチスロの名前にね私の名前がついているのよ。パチスロは随分と投資したわ。おそらく家が買えるくらい」
「ギャンブラーですねー。ソフトバンクはアンテナの状態が悪くて、通話できない状態が多いんです。それで私、以前に離婚したんです。髪の毛綺麗ですよ、でもすこし乾燥しているようですよね。」
(パチスロが造られるほどのギャンブラー、え、携帯のアンテナ状態が悪くて離婚・・・・、それに髪の毛の話題、しかしなんでこれで会話が続く・・・)
でも「離婚」の言葉は二人にとってキーワードだったらしく、それから続く二人の男性問題。無論、携帯の話とギャンブル談義と髪の毛の話、それに後から新たに追加した洋服の話も織り交ぜて、会話は続くのである。
どうやら、二人とも自傷男運が悪く、波瀾万丈な男性との付き合いがあったらしい。携帯はauに切り替えてから満足しているらしい。ギャンブルは今まで投資したおかげで極意をつかんだららしい。洋服の話は、誰それが派手で自分たちには同じ服は着れそうもないらしい。
それらをお互いに出し惜しみすることなく、声を落とすわけでもなく、話し続けた訳である。隣に本を読もうとしている、一人の男性がいるのも無視して・・・・
僕は何度、本とコーヒーに集中しようと思ったことだろう。でもそう思えば思うほど、耳がダンボのように大きくなっていくのがわかる。でもね、聞く耳を持っていなくても、隣だから普通に聞こえてくるんです、二人の会話の全てが・・・・
それで僕はいそいそとコーヒーを飲み終え、本を鞄にしまい込み、マクドナルドを離れた。多少、果てがなく続きそうな二人の女性の会話に後ろ髪が引かれたが、聞いてどうなるわけでもない。それに、早く家に帰りなさい、ということなのかもしれない。
喫茶店での読書は悪くはない、でも時として読書が出来ないときもある。
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