今日は先輩の卒業式だった。卒業式と行っても学校ではなく会社から離任するという話だ。役員までいった先輩は会社から留任のオファーを受けていたらしい。それを受けなかったのは過去に前例はないそうだが、先輩は新たな道を強い決意で選ぶことにしたのだそうだ。今度の会社は200人程度の小さなIT企業だとのこと。きっとどこにいっても彼であれば成功するに違いない。
卒業式は会社に隣接するホテルで開催した。元々企画を立てたのは先輩が入社当時に所属していた部署の面々だったので有志一同の形ではあったが、それでも100名ほどの人が先輩との別れを惜しみ集まった。僕にとっても昔から知っている顔がそろう。何か同窓会のような雰囲気で会は進んだ。こんな会を開くことが出来、懐かしい人たちと会うことが出来たこと自体先輩のおかげでもある。
僕は写真担当でカメラを持って参加した。ファインダー越しにみるそれぞれの顔は昔の面影を多少は残しながらも確かに年月が顔に刻んでいる。それでも笑う顔は昔ながらの顔に戻るから不思議だ。最後に集合写真を撮った。みんな笑顔だ。久しぶりにこんなに笑顔に溢れた場にいると思った。最後に先輩は挨拶で語った。「生きていて良かった」と。感動し時折声を詰まらせながらも見事な凜とした、それでいてユーモラスなスピーチだった。
少しだけ先輩と話した。話は協力会社の一人の営業の話だった。その営業の男性は随分前に若くして亡くなっていた。僕もとてもお世話になった人だった。今までにありがとうと言いたい人を10人絞るとしても彼はその中に入っている、と先輩は僕に告げた。僕も同じ意見だった。それでもありがとうと言えることが適わずに彼は既にこちらにはいない。先輩の最後の挨拶は集まってくれた人に向けての「ありがとう」だった。ありがとうと生きているうちに言えること。これこそが幸せなことだと先輩は言っているかのようだった。
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