2012/03/21

映画「今度は愛妻家」

2010年1月に公開した映画「今度は愛妻家」で主人公である豊川悦司さん扮する写真家が愛用していたカメラはハッセルブラッドだった。と言っても一回しか観ていないし、その一回もずいぶんと前のことだから誤っているかも知れない。この映画を見終わったときに疑問に思えたのは、無論それは映画に対する批判ではなく単なる写真好きの病気とも言える疑問なのだが、なぜ主人公は写真家の設定なのかと、何故使っているカメラはハッセルブラッドなのか、と言うことだった。

ハッセルブラッドであるのは、おそらく現在でもスタジオカメラマンの多くが使っているから、が適切な回答なのかも知れない。でもこの映画でハッセルブラッドが使われたのは別の理由もあるようにも思えるのだ。思っていることを結論から言うと、それはハッセルブラッドで写真を撮る場合、写真家は被写体である妻を撮る際に視線を下に向けるということだ。それは豊川悦司さん扮する写真家と彼の妻との関係を表していた。彼は妻を正面に見つめ対応することはなかった。

彼は自分の妻が亡くなってから写真を撮れなくなっていた。しかし妻の幻影は彼に自分の写真を撮ることを望んでいた。写真は目の前にないものを撮ることはできない。だからといって写真が真実を写しているとは全く思わないが、少なくとも写真に写るものはこの世界に在るものだけなのだ。だから写真家が幻影の妻の写真を撮るのをためらったのは理解できる。彼には見える妻の姿が写真には写っていないことを認めるのが嫌だったのだ。

最後に幻影の妻を写真に撮るときは、やはりハッセルブラッドだった。そしえ写真家は視線をハッセルブラッドのファインダー、つまり視線を下に向け、妻の写真を撮る。是は記憶違いかも知れないが、最後に彼は自分の助手にこのハッセルブラッドを譲る。間違っていなければこの行為はとても象徴的なことだと思う。かれが助手に渡したのはカメラというものではない。それ以前に彼の人と人との今までの関わり方を変えようと思ったのだ。

しかし豊川悦司さんはこの映画の写真家のようにどうしようもない男を演じるのが上手い。そして多くの人が知っているように殆どの男はこの写真家のようにどうしようもないのだ。

 

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