2004/12/12

来年のビジネス書ベストセラーとADSLで得た教訓

米国のビジネス書は、既に来年のベストセラーが 決まっているのだそうだ。発売前からベストセラーになることがわかっている本とは「ビジョナリーカンパニー2」の続編である。「ビジョナリーカンパニー 2」は日本でもベストセラーになった「ビジョナリーカンパニー」の続編として2001年の12月に訳本がでた。ただし、この続編は日本での売れ行きは芳し くなかった。それは最初が日本で知られている大手優良企業が対象だったが、続編はあまり馴染みのない企業が多く取り上げられていたからだという。しかしア メリカでは現在に至るまで売れ続けていて、この本の信奉者も多いらしい。

この本では、経営者はカリスマ性でビジョンおよび経営戦略を練るのでなく、まず適切な人を選び、不適切な人は省く事から始めるべきとしている。それ から、業界における企業の厳しい環境の認識を持ち、単純で明快な戦略を立てる。また、人の意見に十分に耳を傾ける社風を育て、後継者を育て、かつ経営者の 代が変わろうとも企業が成長していく土台を作ることが大事と言っている。そしてこれらを行う経営者を「第5水準のリーダシップ」として「種を蒔く者」に位 置づけ、その後に脚光を浴びる経営者を「刈り取る者」とした。そして「種を蒔く者」の方がより偉大な経営者として見ている。

話を聞けばもっともな話だと思う。人材を選ぶ事でその企業の今後が決まると言っても、確かに過言ではないと思う。特に不透明な時代においては良い人 材は何よりの財産である事に間違いはない。問題は、その人材をどうやって選択するかだと思う。本書を読んで、考え方としてでるのが、揶揄もすると金太郎飴 としてバカにされる事への応酬かもしれないと言う事だ。企業文化が強いというのはある一面、同じ雰囲気の社員が多くなる事でもある。それは間違いではなく 企業が成功する為に必要な事である、とこの本は言っているようにも聞こえる。確かに、そのような組織は共有のモラルを持ち、行動に無駄が無く、目的に向 かってパワーを発揮すると思う。

ただ僕は思うのだが、全ての企業は社風と優秀な人材を持ち、ビジョンと戦略を持って、効率よく資産を運営しているのではないのだろうか?少なくとも 現代では、ビジョンおよび経営戦略を持つことは企業として当たり前の事だと思う。また過当なリストラが企業にとって愚かな結果に繋がることも十分にわか り、人材育成に力を注いでいるところが大半だと思う。その上で、なぜ企業に成功と失敗が繰り返されるのであろうか?

皮肉で言えば、現在はビジョン・経営戦略・ビジネスモデルの大流行でもある。職場にいてもこの言葉が聞こえない日はないと言ってもいいくらいだ。ビジョン・戦略・戦術を混乱して使う人も中にはいるが・・・
この状況下で、仮に立ち上げた事業が失敗した時に概ねの人が思うことは、戦略の甘さであり、ビジョンのなさ、と言うことになる。でも果たしてそれだけなのだろうか?

1つ例に挙げると、ADSL事業がある。当初ADSL事業はNTTは乗り気ではなかった。NTTにはISDNという、開発と設備投資に莫大な投資を 行った技術があったからだ。アメリカでADSL技術が流行ったのは、電話線の多くは地中に埋められていたため、光ファイバーなどの設備変更が伴う新技術に 移行しづらさがあった事による。その為に従来の銅線をつかったADSL技術が受け入れられた背景があった。

日本の場合、アメリカでADSLの商業的状況が見えてはいたが、銅線から光ファイバーに移行中でもあり、ADSL技術は1つの過渡的な技術との認識 が強かった。その結果、各大手通信会社のADSLへの歩みは遅くなっていった。それにISDNとの干渉も問題になり、ISDNをやめて一時的な技術である ADSLに変える人も少ない、との認識もあった。そこにADSL設備だけをもつ企業が登場した。イーアクセス、ACCAなどが代表的な企業であるが、彼ら はADSLへの投資に二の足を踏んでいた各通信会社の代わりに設備をもつので、十分に企業として存在価値を持っていた。同時期にNTTはADSL系のフ レッツ網が完成している。

これらの企業群には1つの特色があった。それは全て元々の通信事業者達であったと言うことである。だから、彼らの倫理・考え方に縛られていての行動 をとった。ADSLはNTT局内に設備を設けなければならないが、その工事許可は事前にNTTに対して申請しなければならない。通信事業は設備投資産業 で、莫大な投資を必要とするため、綿密な予測と損益の算出が重要になる。逆に言えば、必要な分しか投資は行わない事になる。

次ぎにADSL事業会社として出てきたのが、YahooBBである。YahooBBは母体をソフトバンクにあるので、通信事業者の持っている論理・ 考え方とは全く異質であった。彼らがまず行ったのは、NTT局内のADSL設備工事の多大な申請であった。そして至る所で行われたキャンペーン販売であっ た。彼らの動きを最初は冷ややかに見ていた各通信会社も、その内あわてることになる。あわててNTTに工事申請を行っても、既にYahooに押さえられて いるので、十分に売ることが出来ない状況に陥ってしまっていた。値引き合戦もYahooが最初に打ち出した。そして気が付けば、後発であったYahooが ADSL業者としてシェアがトップとなっていた。

何故、YahooBBがADSL事業においてトップになり得たのであろうか。各通信事業会社は、各社の優秀な人材を投与してきたと思う。投資もそれ なりに行ってきたことだろう。事業としてのビジョンも戦略も、それに伴う戦術もあったと思う。良くいわれる話が、YahooBBの場合、ビジネスモデルが あったと言うことだ。逆に言えば、他の企業はなかったという事になるが、それも個人的には考えづらい。

「イノベーションのジレンマ」がその答えを示してくれるように思える。「イノベーションのジレンマ」では、技術革新において企業が失敗する理由とし てあげているのが、その企業の成功要因であることを示している。つまり、お客様の声を大事にし、過去における成功から学んだ仕方を踏襲する事が、革新技術 を逃し失敗する原因となると述べている。
また初期の革新技術は、企業にとって旨みの少ない事業として現れるので、収入の多くをえている既存技術に固執せざるを得ず、それも失敗に繋がるとも述べている。

当初、ADSLはISDNから光ファイバーへの過渡的技術と考えていたが、結果から見ると革新技術だった。各通信事業者はADSLを当初旨みのある ビジネスとは考えていなかった。かつ、通信事業者の従来の品質固持の考えと設備投資の進め方に囚われ、十分な対応を行ってこなかった。ビジネスは今後来る 光ファイバーで行われると考えていた事もあるが、ISDNが売れていたこともあった。その結果、彼らなりに従前の予測とビジョンに照らし合わせて進んで いった結果、Yahooに負けてしまったという事だと思う。

上記のケースの時に、はたして「ビジョナリーカンパニー2」の考え方が出来るのであろうか?僕にとっては適用が難しいように思える。
人材の選択もこれらの革新技術の前では意味をなさないように感じる。優秀であり、その企業の理念に忠実な人材は、革新技術の前でも従前の企業の成長を考え、正しい判断を行おうとするだろう。その結果、ADSL事業のように競争に負けてしまう様に思えるのだ。

完全なるシステムは完全なるが故に弱いのだそうだ。その為最新のシステム理論では不完全を良しとするらしい。不完全なシステムは完全を目指す目的の ために動き、その為の存在理由もでてくる。これを人材に例えるのは無理強いかもしれないが、人材においても選択の過程の中で、一部は全く違う人材の選択も 必要なのかもしれない。

しかしそれだけでも足りないと思う。企業は既存技術による成長と革新技術による淘汰とが交互に繰り返されるとした時、革新技術のアイデアを企業の次 の収入源として、育てていく社風が必要になると思う。その為に必要なことはやはり「知識創成」の仕組みを企業内に作ることだと思う。ただ、問題なのは革新 的な素晴らしいアイデアがあったとして、それが企業の経営者層に近づく毎に、受け入れられようとする事から、従前の既存技術と同様の歩み方に変質してしま う恐れがあることだ。

その為には、全く新しい、つまりは革新技術の評価方法手順が必要になると思うが、その評価手順を企業経営者層に認識させなくてはならないだろう。まるで堂々巡りである。

それらの対応は残念ながら「ビジョナリーカンパニー2」にも「イノベーションのジレンマ」にも記載されてはいなかった。

来年出版予定の「ビジョナリーカンパニー3」は一体僕に何を教えてくれるのだろうか。
いまから期待と不安の半分半分の気持ちで待っている。

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