2004/12/09

満腔の怒り、それでも・・・

北朝鮮側が提出した遺骨がDNA鑑定で横田めぐみさんと違うことが明らかになった。横田さんの今まで に受けてきた暴力とも言える、数々の北朝鮮からの仕打ちに対して、言葉を失う。横田さんの言葉である「満腔の怒り」に強い意志を感じる、と同時にその「満 腔の怒り」がTVを通じて僕に伝染してくる。さらに、娘さんである横田めぐみさんの生存を確信する横田さん夫婦の姿に、親の愛情の強さを感じる。めぐみさ んが戻り、横田さん家族に平安の日々が再び訪れる事を願わずにはいられない。

その横田さんは北朝鮮への経済制裁発動を政府に強く要望している。北朝鮮との交渉での不誠実な対応と一向に解決の兆しを見せない状況に、別の仕方による新たな展開を求める気持ちはわかるような気がする。

でも「満腔の怒り」が伝わっている僕ではあるが、「経済制裁」の発動は慎重に行うべきだとの考えは変わらない。理由は幾つかある。勿論、国際政治に疎い僕の意見なのですが・・・

まず、経済制裁が的確に効果を出すとは思えない点だ。メディアには「北朝鮮は不誠実な国だ」「ねつ造する国」「北朝鮮は悪」「常識では考えられない 国」といった言葉が出てくる。この場合、北朝鮮という国のイメージは「金正日」個人と、金正日を将軍様として讃える体制と、一部の利権を貪る国家権力に携 わる人達の事だと思う。
経済制裁の目的が早期拉致事件の解決が目的であれば、その制裁がこれらの人達に対し、効果的でなければいけない。しかし、過去において他国が行った制裁に 効果があった例を僕は知らない。逆に北朝鮮のような体制であれば、そのしわ寄せは多くの北朝鮮国民に流れると思う。かつ、北朝鮮国民がその結果、現状より 辛い状況に陥ったとき、体制側がそれらを経済制裁を行った国に理由を求める結果になる様に思える。その結果、拉致問題解決の早期解決はさらに遅くなるので ないだろうか。

北朝鮮の国民にしわ寄せが出来たとき、脱北者が増大する事も予想される。その受け入れの体制は日本には十分には整備されていないように思える。多くの脱北者があり、それらが韓国の一国だけの受け入れが不能なとき、日本はどうするつもりなのだろう。

北朝鮮側は制裁によって追い込まれる時、制裁に反対する国も当然ながら出てくる。おそらく中国、ロシア、もしくは韓国だと思うが、それらの国は北朝 鮮に歩み寄る事で、日朝6カ国会議における、ひいては今後の東アジアにおける発言力を高めようとすると思われる。その結果の先々の日本の立場はどうなるの だろう。

そもそも北朝鮮が追い込まれたときに、「悪」「常識では考えられない」と言われる国がどの様な行動をとるのだろうか?その事自体予測不明でもある。
経済制裁の対象国が行う側と同じ論理であれば、予想可能であろうが、今回の相手は、メディアを含め多くの方が言うとおりであれば、そうではない。テポド ン、ノドンの射程距離は日本全土を覆っている。そのリスクの可能性はゼロと言えるのだろうか?少なくとも僕にとってはゼロではない。

アメリカが北朝鮮に対し強い態度でいられるのは、強大な軍事力の背景があるが、地政学的に距離が離れている事もあるように思える。なにしろ、最大射 程のテポドン2でさえ、アラスカに届くのがやっとなのだ。韓国が「太陽政策」を続け、北朝鮮に対し「同胞」とメディアを通じて言い続けるのは、「同胞」で あるのは事実としても、僕には現在休戦中となっている、朝鮮戦争の傷が相当に深い事の裏返しに見えてしまう。彼らにとっては、北朝鮮の少しの動きにも敏感 なはずである。韓国に日本の「経済制裁」がどの様な影響を与えるのだろうか?
しかも追い込まれた結果、休戦でなくなったときに、多くの犠牲者が出るのは韓国であろう。また当然にミサイルは日本にも飛んで来る。

またその際に、脱北者というよりは数十万規模の難民問題も当然に出てくると思われる。日本は国際圧力から受け入れをせざるを得ない状況になることだろう。

そんな状況はあり得ないと、思われる方も多いことだろう。その理由としてアメリカの軍事抑止力があると思う。確かに日本はイラク派遣を担保にアメリ カの国際政治に加担しているでの、確かにそれはあるかもしれない。多くのイラク国民を殺す事に加担する事が、北朝鮮から身を守ることにつながるという考え 自体、薄ら寒い思いがする。でも僕は北朝鮮問題とイラク問題を日本において繋げて見てしまう。

アメリカ無しでも、北朝鮮が追いつめられても戦争状態に持ち込むような事にはならないと考えている方もいるかもしれない。その場合、中国・ロシアが 許さないと思うのであろうか?ただ、現代の戦争は以前のような常識にとらわれる事が出来なくなっているように感じる。例えばアメリカのイラク侵攻の様に。 あれはアメリカと言う国の特別な状況下で起きたことだろうか?
少なくとも現時点で、北朝鮮を見るときに、その考えで決めてかかる事は僕には出来ない。

国際政治は緻密な戦略を練っての行動をとらなければならないと思う。その際、あらゆる可能性からリスクを算出し、その中で国益にかなった行動が求め られるはずだ。その戦略を担うブレーンが小泉政権では誰なのかわからないか、今回の「遺骨のねつ造」における対応についても、十分なリスク計算を行い、確 固たる方針を決めて欲しいと願う。決して、その時の国民感情だけで決めて欲しくはない。

北朝鮮にとって最も脅威を感じる国はアメリカである事は間違いないと思う。北朝鮮はアメリカに自分たちの体制を脅かさない様な約束を取り交わしたいと考えているはずだ。
今回、北朝鮮主導で行われたと言われている「日本の過去清算を求める国際連帯協議会」で、日本の過去の清算を求める決議がでたが、それは日本の制裁処置が 他国に過去の侵略行為をだぶらせる効果を狙った要素もあるのでないだろうか。それは日本の経済制裁をある程度怖がっているとも言える。
日本は、「遺骨のねつ造」と「経済制裁」のカード、および「アメリカ」へのパイプ役になり得るとのカードをうまく使い分けて臨んで欲しいと思う。
僕としては、6カ国会議で本議題を話し合って欲しいと願う。その為に必要なのは、アメリカ以外の3カ国にも理解を求めることだろう。
時間がかかるが、話し合い中心の進め方の方が、まだ予測可能で確実に思える。

問題は国際政治における戦略を練れるかどうかの手腕にかかっているのであって、「経済制裁」はその手腕のなさを他国に見せる事にしかならないように思える。

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