ある企業で新サービスを検討するための会議を行った。僕はその会議に出席した人から直接の会議の内容を聞き、可笑しいと同時に頭を抱え込んでしまった。その会議を招集したのは事業部長クラスだったらしく、その企業では事業部毎の採算管理を行っている事から、新たなヒット商品を模索する為に行われたらしい。会議は、各部から数名選び総員十数名の規模で行われ、軽食と若干の飲み物が手配されてもいたと聞いた。着席すると事業部長の挨拶から始まり、それ以降はブレーンストーミングが行われたらしい。活発な意見交換がでたのかとその出席者に確認したが、あまり出なかったと聞いた。
新サービス模索のために会議を行うのは勿論良い。またその会議の演出に軽食と飲み物を手配するのも良いと思う。人は何かを食べながら話をするとリラックス出来ると思うからだ。最初の大きな過ちは事業部長がその会議を仕切った事だと僕は思う。当然に出席者の発言はその事業部における評価システムを意識し始める。つまりは事業部長のご機嫌をうかがって、迂闊なことが言えなくなって来ると思う。これでは折角のブレーンストーミングも出発点から機能しなくなる。事業部長の登場は会議が始まる最初の儀式の部分だけで十分だろう。儀式としての登場は、自ずから出席者に事業部長に了解されている会議であると認識される。事業部長クラスの会議運営の役目はそれで十分だと僕は考える。
次ぎに「新サービスとは何か」について、全体のコンセンサスがその会議では得られていないのも問題だと思う。新サービスには大きく分けて2種類ある。1つは現在企業が提供しているサービスから派生する改善的新サービス、もう一つは新市場を開拓する全く新しいサービス。その2つの新サービスは検討する仕方と内容は明らかに違う。おそらくその会議で目指した新サービスとは新市場の開拓であると推察する。
事業部である限りは、配下に部署が幾つか存在し、その部署毎に会社から委託された機能を持っている。そしてその機能を満足するために部員達は働いていることになる。彼らにとって大事なことは自分の業務を成功することであり、それに向かって意識と能力は動いているはずである。新市場の開拓の為にといきなり言われて、ブレーンストーミングを行っても出てくるとは到底思えない。
会議には「場」を作る事が大切だと思っている。「場」とは共通の目的と、その目的を阻む問題を解決する共通の意識が必要となってくる。最初に会議で「場」を作る為には、会議を主催する人(議長)の役割が重要になってくる。「場」ができあがると議長は会議の目的が見失われない事に気をつけるだけで良くなるが、最初は議長が会議の目的を出席者に共有化出来るか否かが重要となってくる。その為には、事前に会議のコアとなる要員を選択し打ち合わせを行っておくことも、時には必要となるかもしれない。「場」は壊れやすく、かつ「場」の参加者以外にはその雰囲気は伝えにくい物だとも思う。壊れない様にコア要員に協力を要請するのである。会議が数回続く時、参加者が変わる度に、議事内容が戻って繰り返しになることが多いのは「場」の雰囲気が伝わりづらい為だと思う。よって、このような会議で必要な事は、「会議場所の選択」「出席者の固定化」「長時間の会議」となってくる。
でも前記に述べたように、各人きわめて忙しいのである。中途半端な会議であれば、やらない方がよっぽど会社の為と思う。
聞いたところによれば、人の思考には2種類あるらしい。簡単に言うと1つ目はイベント毎に対応する思考で、早さが求められる。臨機応変な思考でもあり、その為には経験とスキルが必要になる。一般に仕事が出来ると言われる人達の多くはこの思考能力に長けていると思う。もう一つはじっくりと深く考える思考といえる。この場合考えるためには、静かで邪魔されない場所が必要となる。ビジネスモデル、ビジョン、ポリシー等の本質を考える場合はこの思考となる。この2つを同時に使うことは人には出来ないとされている。
仕事が出来る人は冷静に見れば、概ね日々に出現する問題の「モグラたたき」を行っている事が多いようにも思える。「もぐら」が何故発生するのかの本質を捉え、それに向けての改善を行えば「たたく」回数も自ずから減るかもしれない。
業務の観点から見ると、業務には「定例業務」と「非定例業務」の2種類ある。その会社で新サービスを検討する前に、やるべき事は「定例業務」を減らす事だと思う。その為には「定例業務分析」を行う必要も出てくるが、その時間もないのであれば一時的に人を増やす必要も出てくるのかもしれない。人を増やすと言っても、教育に時間が取られるのであれば元もない。まず派遣社員でも数名雇い、簡単な雑用から初めるのはどうだろうか。事業部長の権限であればそのくらいの費用は決済可能だと思うのだが。
問題は「定例業務」を減らすことにより得られる時間の活用方法である。それは「非定例業務」の品質と生産性を上げることでもあり、さらには上記の「じっくり考える」時間も増やすことでもある。
評価システムの変更も必要かもしれない。有名な話だが、米国のある企業では1日の業務時間中に一定の割合で業務以外の事を考える時間を設けている。勿論、その考えた成果も別途提示しなければならないが、その時間は各人どの様に使うかは全くの自由らしい。極端なことを言えば、好きなゲームをしていても良い。日本の社会を考えれば難しいとは思うが、評価が自分の業務の成功に限定している以上、今回の様な新サービス検討に意識が向かうとは思えない。
さらに新サービス開発に向けてのプロジェクトを結成するのも良いと思う。プロジェクトは100%専任として、一定期間(例えば半年)後に企画書を提出を求める。その期間中はプロジェクトは予算内であれば何をしても良い。大学に行くのもよし、海外研修にむかうのもよし。行動は出来るだけ自由にする。プロジェクト要員は出来るだけ少人数にする。
通常企業には企画部門があるが、業務内容は「調整」「段取り」もしくは「プロモーション活動」「販促企画」であり、本当の意味での新企画を検討する部署は少ないのではないだろうか。仮に新企画を検討する部署であっても、内容は新市場の検討に向けての開発よりは、継続的技術改善からくる新企画が多いようにも思える。ましてや、事業部の企画部門は特にその傾向が強くなるのではないだろうか。
このプロジェクトは完全に成果主義でもあるので、その為には評価システムの特例をそこに設ける必要もあるかもしれないが、面白い実験ではないかとも思う。
その企業の新サービス検討会議を発端に好き勝手なことを書いてしまってはいるが、整理すると言いたいことは、人を集めてさぁ考えなさいといきなり初めても、それは無理であり、まず事業部長の立場で考えなければならないことが色々とあると言いたかったのである。
この記事に掲載している事項以外で、さらに考えなければならないことは色々とあると思う。でも安易に流行の「ナレッジマネージメント」を提唱するつもりもない。事前にナレッジ内容とプロセスを把握しておかない限り、効果は得られないと思っているからだ。この様な会議で「価値のある知識」を得ようと考える組織であれば、特にそう思ってしまう。
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