2004/12/14

YahooBBがADSLで勝った理由の考察

僕が以前の記事「来年のビジネス書ベストセラーとADSLで得た教訓」で書いたADSLの事につい て、幾つか誤りがあった。それはADSL技術の事を革新技術と位置付けた事だ。実は書きながら自分としては釈然としない思いに囚われていた。それは ADSLは革新技術と言えないのでないかという思いであった。少なくとも「イノベーションのジレンマ」で定義する「破壊的イノベーション」の定義とは違っ ているのは理解していた。ただ、それしかYahooBBに多くの通信事業者が負けたという事の理由が思いつかなかった事もあり、安易にそれに飛びついてし まったのも、否めない本音の部分であったのも間違いない。そこで、あらためて考えてみた。実を言うとまだ筋として煮詰めきっていない部分もあるが、覚書と してブログに掲載する事とした。

まず「破壊的イノベーション」の定義からか見ていこうと思う。破壊的イノベーションはローエンドに品質は多少落ちるが安価な製品として登場する。そ の製品業界の大手にとって、ローエンド向け商品は利益率が低いので、新たに登場した安価な商品に対抗する以前に撤退を行い、より利益率の高い商品に資本分 配を行う方向に向かう。技術の進歩により、破壊的イノベーションの商品の品質は上がり、ローエンドから少し上のランクの顧客に対して販売を行うと、ローエ ンドと同様に撤退を行い、最終的には大手大手企業は負けることになる。

その図式にADSLは適合はしない。まずローエンドに向けての技術ではない。ADSL技術が日本に登場した時、常時接続はフレッツISDNのみで あった。多くの利用者は固定電話回線でのダイアルアップによる帯域での利用だった。そしてダイアルアップによる接続は固定電話の通話料が発生する従量制課 金であった。ネットの利用はその有効性が認識されていた事とブームもあり急速に利用者数は増加をたどったが、それでも全体から見ると一部の利用者の範疇 だったと思う。これについては適切なデータを持って説明すれば良いのであるが、それはご勘弁いただきたいが、概ね認識は合っていると思う。

ネットの利用率が高い顧客はフレッツISDNを利用していた。その顧客の不満は上り下り双方の転送速度が遅い事だった。そこにADSL技術が登場した為、まずはネット利用率が高い顧客が移行したと思われる。ただ料金は高かった。

ここで言いたい事は、ADSLはローエンドに向けての安価なサービスではなかったという事である。その時点で、ADSLは少なくともローエンド方破壊的イノベーションではなかったということができる。

その当時の事をさらに振り返ってみたいと思う。モデルとして企業群を3つに振り分ける。
まずA群としてプロバイダー、B群としてADSL回線事業者、CとしてYahooBBに振り分ける。A群にはNTTを含む通信事業者がそこには含まれる。B群はイーアクセス、ACCA、フレッツ網等のADSL回線事業者である。

まずA群はADSL登場時、ダイアルアップとISDNのゲートウェイを全国に展開し、さらに展開を推し進めていた。また時期主力とみなされていた光ファイ バーへの検討も順次行っており投資は増えてきていた。ダイアルアップのゲートウェイを増加するには事前の数ヶ月前にNTTに工事許可を行う必要があり、年 間を通じて計画は既にあり、それに向けて進めていた。つまり投資配分は既に決まっている状況であった。これは通信事業者の常識であり、後述するB群にもそ れは通用していた。

そこにADSLが登場する。当然にA群は自前設備か他社網を利用するか選択を迫られることになる。自前設備は莫大になるため、ダイアルアップ等の設備計画が確定している中での選択は、ダイアルアップがある程度売り切れたらとの消極的な作戦に出る事になる。
その時はフレッツ系しか他社回線網の選択はなく、自前も一部のプロバイダで計画はあったが受け入れられる顧客数は少なかった。

またA群にとって、ADSLは光ファイバー迄の暫定的技術の認識が根強くあり、ADSLにシフトするモチベーションも少なかった。一部のネットを頻 繁に使う利用者がADSLを暫定的に使うとの認識も営業側にはあり、売り方としてはダイアルアップユーザで月使用料金がADSLを超えている顧客の移動促 進がメインと考えているところもあったように思われる。

そこにB群企業が登場する、B群企業はA群企業にとって、当初渡りに船だった。またB群企業は自前でプロバイダ事業を計画するところはなく、あくま で回線提供者だった事もA群企業との相性を良くした。B群企業は新たに誕生した会社群であったが、経営社層、及び資本関係は殆ど通信事業者からの転進また は資本を受けての設立だった事もあり、設備計画に関する認識はA群と同様であった。逆に同様であったので、回線提供事業者としての存在理由をそこに見出 し、起業となった感も否めない事実だと思う。

これによって、A群は大いに販売をする機会が得る事ができたが、それでもなおB群に対し年間設備計画の提示が求められ、急な増強には十分に答える事 はできなかった。ただ、同じ通信事業者の感覚もありはじめの頃は概ね関係は良好だったと思う。これにより、A群はランニングコストはかかるにせよ、その分 は顧客から徴収すれば良く、その他への投資配分を崩す事は免れたかのように思えた。

YahooBBが登場する。YahooBBは回線とプロバイダの双方とも持ち現れた。戦略は単純だった。つまり、NTTへのADSLの口を一気に押 さえたこと、それにより一気にサービスを全国で提供した事、常時接続と安価な事を中心に街の至る所で宣伝活動を始めた事、などからわかるように、いまだ ネットを利用した事がない顧客を対象にした事だった。またYahooBBには光ファイバーに移行する事は当初全くなく、幾つかの無料提供と安価なイメージ 戦略で、ネット利用にコスト面から抵抗のあった未利用顧客の取り込みに資本配分を全て注いだと考えられる。

A群にとって、ADSL顧客は新市場にはなく、既存利用者からの移行であった。この点が大きく違っていた。A群にとってあくまで新市場は光ファイ バーを使っての、コンテンツ事業であったのだ。YahooBBが新規顧客を取り込みが行われている時、A群起業は手をこまねいて見ていたわけではないが、 設備計画にその発想がなかったため、計画変更する手間がかかり、なおかつ通信事業者の常識がそこには流れさらに方向変更に時間がかかった。なおかつ既に NTT設備面はYahooBBが押さえている現状もあり、しばらくは営業的にも力を注ぐ事ができなかった。

これらの点を見ていくと、僕にとって次の事が浮かび上がってくる。
まず、ADSLはローエンド型破壊イノベーションではなく、技術としてはダイアルアップ接続の持続的イノベーションと位置付けられる。
しかし、売り方の点から見ると、YahooBBは未利用顧客の積極的展開からみて、新市場型破壊イノベーションと言えるように思える。しかし、これはあくまでADSL技術でなくYahooのビジネスモデルがということになる。

前回ではビジネスモデルについてもある意味批判的と受け取れる意見も書いたのは事実である。この場を借りてお詫びをしたい。

ただ、この記事に書いてあることも、一つの推測に過ぎないことは間違いない。推測における誤りがわかれば順次訂正をしていきたいと思う。

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