2005/04/10

映画「コラテラル」感想のための覚書

20050410122fb8eb.jpg映画「コラテラル」をDVDで見た。マイケル・マン監督、トム・クルーズ主演の1994年10月に日本公開した映画で、前評判が高かったため映画館で見られた方も多かったと思う。僕自身も映画館で見たかった映画の一つだが、機会を逸してしまい観賞できたのは一昨日のことだった。
以下にまとめるのは、先々感想を書くかも知れないこの映画の覚え書きとなる。少し無茶苦茶な感想ではあるが、まぁファーストインプレッションの位置づけなのでご容赦の程お願いします。

殺し屋ヴィンセント(トム・クルーズ)がタクシー運転手マックス(ジェイミー・フォックス)に語るロスアンジェルス地下鉄の逸話がこの映画の鍵であると僕は思う。その逸話とは、地下鉄で死んだ男が6時間放置され、その間電車に乗り合わせた人々が、男が死んでいることを誰も気が付かなかった話だ。

地下鉄を含む電車の記号性から僕らは様々なことを語ることが出来る。映画で中では、ロサンジェルスの象徴として「電車で死ぬ男」の話が出るが、「電車」はロサンジェルスを含む都市全てを現しているのでもなく、社会全体を象徴しているように思う。それは、オーム真理教がサリンをまいた場所が地下鉄であることと同じ意味の象徴性に他ならないと考える。

その他にもこの映画には電車のもつ象徴性が出てくる。一つはダンスクラブのシーン。密閉空間、触れ触られる空間、お互いが無縁の人たち、そこでは自分が夢中に踊り他の人は存在しない。それはまるで、満員電車のイメージもある。その中での銃撃戦。それでも気が付かずに踊る人々。その中で撃たれ死ぬ男は、電車で死ぬ男と同じ意味を持つ。さらに、ヴィンセントの最後は電車の中でもある。それはまさしく電車で死ぬ男だ。

「電車で死ぬ男」の例えは、都市における人間関係の希薄さだけでなく、それ以上に僕らの日常を語っているのでないだろうか。殺人、暴行、自殺、戦争、虐殺、等々の記事が新聞に掲載されない日はない。僕らの日常そのものが異常な出来事に満ちている。映画はまさにその事を、善意の人である運転手マックスに見せつける。映画では常にマックスの目の前で人が死んでいく。その死はある意味「電車で死ぬ男」と同一線上にいる。

殺人(つまりは異常なる日常)に対抗するマックスの論理は非常に乏しい。それはヴィンセントの人間的欠陥だったり、殺された男の家族のことだったりする。それに対するヴィンセントは60億分の1、ルワンダ難民の話をし、殺された男が見知らぬ人であれば気にすることがないと言い、現に世界中の見知らぬ人の死を無視しているではないかと語る。マクロとミクロの対話。

ヴィンセントとマックスのこの会話は、僕らの日常において時折行われている。数十万人規模の虐殺が行われているのに、目の前の殺人にだけ心を痛める事に対するヴィンセントの批判。それに答えられないマックスの姿。その姿は現実の世界を認識出来ない姿に通じる。

最初ヴィンセントの言葉と行動に対応できなかったマックスは、次の標的が自分が好意を寄せている女性であることを知り、ヴィンセントに対し反撃に出る。ここでもマックスは身近な人の危険で行動をとる。ただ、彼はヴィンセントと行動を共にすることで大きく変わっている。身近な人を助けるのは理屈ではないのだ。まずはそこから始めなくては社会は変わらない。それが今の社会が異常であることを受け容れたとしても。

最後にヴィンセントが電車の中で死ぬときにマックスは傍に座り看取る。そして彼を望み通りに電車の中に放置する。電車の中の男の死を知っているのは、マックス自身に他ならない。それは無関心の状況ではない。ヴィンセンが最後まで自分の考えを変えなかったが、彼の死は「電車の中の男の死」とはマックスがそれを認知している以上、質的な変化を遂げていると僕は思う。逆に言えば、マックスがヴィンセントを放置する行為が、現状を受け容れるが、それは自分の身近なな出来事に対応することでも世の中は変えられるというメッセージを送っているかのようだ。

とてもアメリカ的な映画かもしれない。まずヴィンセントの風貌からして記号性に満ちている。最初この映画を見たときに、あ、これはキリスト教における隣人愛の映画かもしれないと直感した。その方向でも解釈可能だが、僕には手に余る。ただ、最後のヴィンセントとマックスの顔と顔をあわせての対決により、彼らは電車の中の見知らぬ他人から、隣人へと昇格したように思えたのだ。人は隣人を殺す。最後の一瞬に彼らは分かり合えたのでないだろうか。そんな気もした。

こんな感じの感想をもう少し掘り下げて書くつもりではいる。その時は内容が変わるかも知れない。多分変わる。なにしろ1回しか見ていないので、もう何回か観てからと思っている。でもいつになる事やら・・・

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