2004/11/11

感動携帯? 勘当携帯?

auの着うたフルの価格が発表当時(10月13日)に既にある程度出ていることを今頃になって知った。今までに本ブログで2回「着うたフル」の事を書いているが、再度この価格設定を踏まえて書くことにした。

発表では「アーティスト公式サウンドフルの場合で315円など数百円」との事。Appleで展開している音楽配信サービスとは違い、価格は一律では ないという事だのだろう。315円という価格は最大値であることを願いたいが、いかんせん既に米国等でサービスしている、100円感覚の価格設定に比べる と割高の感は免れない。

ただ、日本でネットを使っての音楽配信サービスは概ね1曲250円くらいなので、実際にはその価格帯で落ち着く様な気がする。

正 直言って音楽配信サービスは(この価格帯であれば)日本で大きく広まることはないだろう、と言うのが率直な気持ちである。勿論一部のニーズは満足すること になるとは思うが、レンタルCD業界に脅威を与えるほどのサービスにはなり得ない感じがする。ましてや、以前にも書いたがiPodの変わりにはなり得ない と思う。

しかし、11月下旬サービス開始の割には価格帯の発表が(明確ではないが)早いように思える。価格は営業施策上重要な項目である ため、日本では通常最後に決まることが多い。勿論競合相手を牽制する事から相当事前に発表する事もあり得るが、着うたフルの場合牽制する相手は特に見あた らない、また、この価格では牽制にもならない。何故だろうと自問することもなく、僕には1つの推測がある。これはau主導のサービスに見えるが、実態は音 楽業界が主導のサービスだという事である。特に楽曲の価格面については、リーダシップを持っていたのは終始音楽業界側だったのではないかと想像する。

そう考える様になった根拠は以下の通り。

1.KDDI 側にとって本サービスは技術的に「着うた」の延長線上に位置づけられているので、サービスサーバは基本的に流用が可能。また維持費用はサーバ台数の検討が 必要だが、実態ベースでは「着うた」の維持の範疇に含める事とが可能である。窓口対応などの人的費用は「着うた」の延長で対応可能。つまり、KDDI側で は、この件に対応する事は携帯端末対応、CD購入等の物品販売対応、音楽サイトの構築くらいで、開発期間は短く、開発維持コストは安いと思われる。

2.楽曲の価格は殆ど音楽業界に支払う著作権料。

3. 本音ベースで言えば、KDDI側は音楽が売れようが売れまいが問題ではない。KDDI側が気にする事は、他携帯各社に対する携帯機能およびサービスの差別 化だと思う。特に本サービスはダブル定額サービス利用者が主たる対象者でもあり、KDDI側にとっては音楽が売れても売れなくても、顧客から料金を徴収で きる。

4.上記3では、音楽が売れる事に興味がないと書いてしまったが、勿論売れて欲しいと思うし、それなりの営業努力は行うはずだ。そ の結果、KDDI側は音楽業界と深い繋がりが持て、今後の展開に有利になると思われる(他の携帯会社が始めた時、デファクトスタンダードの扱いになり、 サービスが先行しやすくなる)。

5.本サービスにより、auに対する周知度が高まる。また音楽を全面に押し出したイメージ広告によりauの好感度があがり、結果的に端末シェアの増大につながる。それは「着うたフル」機能を持たない端末まで波及効果が得られ、その面からもKDDI側は利益を得る。
6.音楽業界から見ると、権益を守る為に音楽配信の媒体を1つでも押さえておく必要がある。KDDIは「着うた」でのラジオ局との折衝により、通信会社の枠を超えるような交渉は行わない印象が他業界にあるため、今後の事を考えて交渉しやすい相手と思われている。

つまり、今回の「着うたフル」の楽曲の価格設定で、KDDI側が一番に考える事はユーザの事ではなく、音楽業界との繋がりだと思う。その結果が、料金の設定提示の早さであり、「着うたフル」の機能面の現れだと思う。(PCとの連携が出来ない、コーディックは一律など)

ビ ジネスモデル的には「着うた」と同様のFM放送から楽曲購入の流れに、今回はCD購入を加えることになる。CD販売は通信会社としては初めての試みだが、 実態ベースでは委託になると想像する。詳細はわからないが、技術的にはWebサービスを使っての流れと考えて良いと思う。

「着うたフル」 は、新規携帯の多くの機能を利用でき、ネットを使っての音楽購入を違和感なく使うことが出来、音楽を頻繁に聴く、新しい物好きの人が対象で、それなりに少 ないがいると思うから(何か自分の事を言っているように思えてきた^^)、それなりに売れるとは思う。勿論、それなりに・・・・

でも、と思う。
確かにKDDIは「着うた」では大きな成功を得た。でも、これはあくまで個人的意見だけど、「着うた」と「着うたフル」は確かに技術面とビジネスモデルとし ては同等だと思うが、サービスとしてみると明らかに違うと思う。「着うた」は「着メロ」と同系列ではあるが、それは着信音のカスタマイズ化の位置づけであ り、携帯の個性化へのニーズから現れたサービスの様に思える。
しかし、「着うたフル」は明らかに着信音ではない。勿論着信音として利用できるが、それは「副」の機能だと思う。第一、人は「着うた」をイヤホンで聴き続けるであろうか?そんな人は少ないと思う。(いないとは言わないけど・・・)
「着うたフル」は正真正銘の音楽配信サービスである。でも今までの発表を見る限りでは、サービスも同一線上に見ているように思えてしかたがない。

企業が1つのサービスで大成功すると、逆にその事がネックになり思考が停止することがある。この場合、顧客ニーズをリサーチしていても、結果は前回の成功をおさめたサービスの視点で物事を見ているので、分析を見誤る傾向があるようにも思える。
勿 論、「着うたフル」のサービスはイノベーションではない。でも今回、KDDIは従来の音楽配信サービスを変革できる千載一遇のチャンスを得たはずだった。 できれば、現在の日本の音楽配信サービスを変革する意気込みで、このサービスを立ち上げて欲しかった。これが、僕の正直な気持ちである。それにより、 KDDIは想像以上の有形無形の利益を得ることが出来る。勿論、利用者においても同様だったと思う。
これでは、KDDIの前身であるDDI子会社であったポケットのエッジ音楽配信サービスとなんら変わりはない様に思えてくる。

上記のように、少し失望感を持って記事を書いているが、それでもKDDIは通信会社という官僚体質企業から抜け出る事が出来る会社だと、期待しているからで もある。今からでも決して遅くはない、携帯電話会社が始めて得られた千載一遇のチャンスを生かして、あっと驚く展開を期待している。このままの何もしない で、感動携帯が利用者にそっぽを向かれる勘当携帯になる前に。

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