「なごり雪」と言えばイルカが歌うフォークの名曲として知られる。作詞作曲は伊勢正三さん、もと「かぐや姫」の一員でもある。元々この曲は「かぐや姫」のアルバムに入っていた曲らしい。
その「なごり雪」をイメージした映画を借りてみた。監督が大林宣彦さんである事も、この映画を観る動機の1つ。見終わった感想は、皮肉でも何でもなく「本当に良かった」のひと言。いつもの事ながら、映画感想の語彙不足に我ながら驚く。
この映画は、大分県臼杵(うすき)が舞台になっている。あとから聞いたら、「なごり雪」の歌ではなく、大分県臼杵ありきで映画の企画が始まったらしい。映画の設定では、28年前の高校時代と現在の物語を、主人公である梶村祐作(三浦友和さん)のナレーションと共に進行している。
映画では昔の場面を撮影するときにCGを使ったり、セットを組んだりと苦労するが、臼杵を舞台にしたこの映画では、過去を表現するために使ったのは2つだけとのことだった。
1つはカメラのレンズを28年前の物に変えた事。もう一つはセリフを28年前の映画で使われた表現で行った事。舞台である臼杵は28年前と何も変わっていないので、撮影後にCGで余計な物を消す作業も必要なかったと聞いた。
後で監督自身が言っている事だが、臼杵で映画を撮りたいと臼杵市長にお願いしたところ、少し苦い顔をされ大林監督に言ったそうだ。
「映画の舞台になると観光客が臼杵に来て変わってしまうかもしれません」
市長にとって「町おこし」という考えはない。古い街並みをメンテナンスで保存し続ける事、昔ながらの「暮らし」を営むこと。28年前と何ら変わらない街並みは「暮らし」を中心に町のあり方を考えた結果、そこにあり続けた様に思った。
高度成長時代、臼杵にセメント工場の誘致が計画されたときがあった。その時は、臼杵が変わる事に反対する住民運動が行われたらしい。その時代、周囲からは臼杵は何も無い町と言われ続けた。今もその状況は全く変わらない。でも今の価値観では、臼杵は何もない町ではなく、何でもある町に変わっている。
「静かな夜がある」、「夜空に美しい星々がある」、「夜の闇がある」、「郷愁に訴える古里のぬくもりがある」
映画の中に紹介していた「臼杵の石仏火まつり」のなんと幻想的なことか。その幻想は夜の闇があってこそ成り立つ物だと思う。
映画の感想は人それぞれだと思うが、僕はこの臼杵市長の考えが映画の中心に流れているように思う。高度成長時代に都会で慌ただしく過ごす主人公と、臼杵の土地で暮らす親友と主人公を恋した女性。映画の中で、荒城の月の舞台となった城跡で親友が言う言葉がある。
「俺は祐作のように高く伸ばすことは出来ないが、地表に大きく強く根を張って生きたい。」
「個性」「豊かさ」の1つの考え方がそこにはあるような気がする。
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